第10章 アザレアのひととき
『中也さんってさぁ、好きな人いる?』
「本気で聞いてんなら振り落とすぞお前」
『本気だよ、どんな人なの?』
「……バカな女」
ひどい、とけらけら笑いながらはしゃいでみるも、なんだか虚しくなってくるな。
『中也さんは私が好き?…私が生まれ変わって次の身体に宿ったとして、その子はもう中也さんの好きな子じゃ無くなっちゃうのかなぁ』
「今日はえらく色々知りたいらしいなぁ?そん時のお前の気持ちを尊重するよ、俺は」
__どうせ好きになっちまうってバレてんだろうけど__
彼はそう言うけれど、そんなに単純なものでは無いらしい。
未来の…近い未来の私に向ける、今よりもっと大人になった彼の表情。
それは今と違って、本当に私を娘として引き取った保護者のような…私の事を忘れられないといったような、そんな顔。
『二十歳以上年が離れてても、同じことが言えるのかしら』
「そうだな、俺は餓鬼には興味ねぇし。せいぜい長生きしてくれよ、勝手にとっととくたばる気なら許さねぇからな」
『私近いうちに死んじゃうらしいの』
「…………いつから“視えてた”?」
『いつだろうねぇ、覚えてないや…あ、中也さんのせいとか貴方と関わったからそうなったわけじゃないからね?元々決まってたところに貴方が居合わせることになっただけだから』
「詳細は」
『わかんない。けど長袖着てたし、秋か冬なんじゃないかなぁ』
マグカップを二つ持ってテーブルに置き、ソファーで私を腕に抱え直して頭を撫で始める。
「それでさっきのデートのお誘い?」
『…あは、バレちゃった』
「お前、死ぬの怖いんなら誤魔化してんじゃねえよ」
『別に死ぬのは何にも怖くないのよ、いつもの事だし、ちょっと苦しいだけだから』
でも、今回はそれ以外の余事象が私に関わってくることになる。
あなたはそのまま生き続けていて、今度は私を探し出してきっと迎えに来てくれる。
問題はその先だ。
『中也さんさあ、私のこと本当に好きよねぇ…ちょっとくらい嫌いになってくれないと、勝ち目無さそうなんだけど』
「バカだろ、デカくなるまで粘りゃいいだけの話だ。今くらいの年になるまで成長したら相応にもてなしてやっからよ」
『あら、そう?…どうにも、今世も来世も私と中也さんには縁がそこまで無いらしくてね……私が死んだら、忘れてくれていいから』
