第10章 アザレアのひととき
朝起きると、突然自分の家…それも自分の使っているベッドの中に、部下が転がり込んでいたことがあった。
何故そこにいるのかと大声で騒ぎ立て、何度も何度も本人に問いただしてみるもら本人も分からないと言うから結局理由は分からずじまい。
リアの断界膜を抜けた時にキャンセルされた能力は、全てのもの。
俺にかけられていた暗示にも近いその記憶操作の力は、効力を失い、在りし日の彼女との思い出を蘇らせてくれた。
今となっては香り付け程度の洋酒で酔っ払って甘え付き、俺の元で眠りこけて抱っこをせがむようなお嬢様に育ってくださったものだけれど。
「……太宰、こいつの元同棲者って誰か知ってっか」
「ああ、それいつ聞かれるのかと思ってた。私だよ」
「薄々そんな気はしてたがな…手前こいつに何しやがった?」
「私が来歴を消すために、二年もこの子を付き合わせられるわけないだろう?…だから捨てて、別の人間に託してここに送り込んだのだよ。二年越しに再会して、もう一緒には住まないほうがいいだろうって言ったらこっぴどくビンタをお見舞されて逃げられてしまってねえ…」
「こいつ、いつから俺の事好きだった?」
「さあ?…生まれる前からなんじゃない?そうじゃなければ私のこと好きになってたでしょ、“そういう気持ち”を向ける相手を本能的に好きになってしまう子なのだから」
太宰に言われて確信する。
つまりあれは、この子のれっきとした告白だったのだ。
拙くてもボロボロでも、必死になってかき集めて伝えてくれた彼女の気持ちを、俺は簡単に跳ね除けて…気付かなかったとはいえ、散々好きだのなんだのと宣っていた挙句に踏みにじっていたことになる。
消されていたのは一部の…恐らく彼女の認識する、俺がリアに好意を向けていた時間なのだろう。
そうだと自覚している部分を思い出せないようにされていたのだろう。
「…本当にそうだとしたら、俺一回こいつのこと振ってたわ」
「は?…嘘でしょ?リアちゃんよく自殺しなかったねそれ」
「本当にな」
今となってその恐ろしさがようやく分かる。
謝れもしないこの事実と、どう向き合えばいいのか未だに答えは出せないけれど。
『ん…ん〜…硬い』
「悪かったな硬くて」
『ちゅうやさん…♡♡』
こいつは何がなんでも手放しちゃいけねえ女だ、それだけハッキリした。
「私にもリアちゃん頂戴」
