第10章 アザレアのひととき
『だ、だって中也さんリアのこと好きって…言ってくれたから』
「……俺のために身体張らなくていいんだよ、女の子だろ?」
『出来なかったら中也さんに捨てられちゃ「んなことしなくっても捨てねえよ、約束する」、…できる、の……無理矢理してくれたら、ちゃんとできるの』
「こういうことするならちゃんとしよう、無理矢理しなくっても時間かけてきゃちゃんとできるようになる。な?」
『そしたらもう捨てられない…?』
例の件がよほどトラウマになっているらしい…そりゃあそうか、ただでさえそういうもんを欲しがってるような奴が追い打ちかけられちまったようなものなんだ。
「大丈夫だよ、俺が見捨ててやらねえから」
『信じるよ…?ほ、ほんとに信じるよ?いいの?』
「いいよ、特別サービスだ。嫌っつってもどこにもやらねえからな」
『…………中也さん、好き。大好き…いっぱい一緒にいて』
「…こら、キスはダメだっつったろ」
え、と零れた声。
見ると、表情が消え、呆然とした様子でリアは俺の方を見つめていた。
『な、んで』
「そういう好きと、甘えたい方の好きとは区別できなくちゃダメだ。自分の身体安売りすんな」
『…………リア、中也さんのこと好きって…リアの全部あげる、って…』
「そこまでされるほどの人間じゃねえから俺は」
『なんで…?なんでよ…なんでそんな事言うの』
純粋な、子供の声。
震えきった声を紡ぐのもやっとのような、彼女は今何を思って泣いているのだろうか。
まだ小さいし、もう少しちゃんとそういう分別がつくようになってから考えればいい…ちゃんと傷を癒してから、流されないで考えた方がいいと、賢いこの子なら分かるだろうに。
『…分かった、じゃあ一回だけキスしてみようよ中也さん。そしたらちゃんと分かるかもしれないし』
「二回も約束破ったら約束した意味が…ッ、!?」
唇に触れる柔らかな感触…それから、鼻をくすぐるいい香り。
小さな身体で俺をソファーに押し倒すように上から覆いかぶさってきて、精一杯のキスをしてくれて…?
「…お、い……何しやがった」
『……じゃーね。バイバイ』
頭がぼうっとする。
意識が持っていかれそうだ。
「リア…、どこ行くんだよ」
『どこにも行かないよ、前までの関係に戻るだけだから……大好きだったよ、中也さん』
「リ…____」
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