第10章 アザレアのひととき
一度唇同士を触れ合わせただけでよっぽど満足してくれたのか、リアはすぐに何も言わなくなって、その代わりに俺の体に両腕を回して抱きついてくる。
あんだけ散々誘ってきておいて、結局恋人同士がするみたいな甘くてふわふわした行為をお望みだったらしい。
欲求不満?とんでもない。
この女、マジで俺の理性を試してやがった。
「リアさん、その体勢だと触れるところ限られてくるんですけど」
『…ん、好きにして』
「何言ってんだ、ちょっとくらい抵抗しろよ」
『ッ、ケホ…』
「…………ん??」
噎せた…というよりは、続けてコホ、コホ、と咳き込む様子が見受けられる。
背中をさすって落ち着かせようと試みるけれど、しばらく軽い咳が続いていていよいよ様子がおかしいような。
「ど、どうした?喘息か何か持ってたっけお前…吸入とかいるか?」
『…?なん…、ッホ、…』
「…………あ、え?……リア、気管とか弱い?」
『あん、まり…強くはないと思う』
「ちょっと待ってろ、水持ってきてや……ああうん、連れてくからそんな顔すんなって」
可能性がないとは言いきれないはずだ。
確かに、仕事終わりに煙草吸ったしよお……禁煙すっか…?
禁煙なぁ…
『ん、ごめんなさい迷惑かけて…』
「お前は何も悪くねえから本当!!!」
急いで水を飲ませてやった。
禁煙するわ、よく考えりゃ執務室だって同じだし。
こいつに煙吸わせるのは避けてたけど、完璧とは言いきれねぇし。
『…中也さん?』
「!なんだ?まだ落ち着きそうにねえか?」
『あの…私気にしてないから、吸っていいよ?いっつも外出てくれてるけど、中也さんが楽な方が嬉しいな』
「俺絶対禁煙するからな…」
ぎゅ、と抱きしめて撫でくりまわし始めたところで、話聞いてました?と純粋につっこまれた。
聞いてたよ、お前が馬鹿みてぇに優しい子だってこと忘れてたわ。
「てなわけでやっぱりキスはもう無しだ」
『…お、お付き合いしたらしてくれる?』
「そういう動機で交際するとか言わねぇの」
『………じゃあ酷い抱き方して言うことなんでも聞かせるくらいのことしてよ』
「却下だ。……まだ触って欲しいんなら続けるけど?」
『キスしてくれる?』
ここ以外ならなと、唇を撫でて指を咥えさせ、口内をまさぐる。
どうやらあっちも折れはしないらしい。
