第10章 アザレアのひととき
『………………失恋?』
「真面目に」
『ホームシック』
「お前両親いねえっつってなかった?ていうかいつまで玄関いるんだよ、とっととこっち来い」
『は、入っていいの?』
驚いたような顔をされ、それから彼は、リビングのソファーまで私の手を引いて歩いていき、そこに座らせる。
それから私の目の前で膝をつき、両手を取って私の顔を覗き込んできた。
「何してもいい。したいことは俺の許可なんか取らなくてもいいんだ…悪いことしてたらちゃんと教えてやるし、わがままくらい聞いてやるよ。思ってることはちゃんと言え、な?」
『そういうこと言って、中也さんもリアのこと置いてっちゃったらもうどうしたらいいの…?』
「…誰かに置いてかれちまったの?」
『う、ん…みんなリアに嬉しいことしていい顔するくせに、気付いたらリアのこと置いてどっか行っちゃうの』
「だから俺と一緒にいて欲しかったの」
穏やかな声色で問われるのに首を縦に振った。
そしたらこの人が優しく慰めてくれてると、知っているから。
この人の人の良さを知っているから。
「……ごめんな、そんなに悩んで泊まりたいっつってくれてたのにつっぱねて。そうかそうか、俺のこと頼ってくれてたのな〜?甘えてくれてたんだなちゃんと」
『で、でも中也さん嫌って』
「嫌は言ってねえだろ、危ないことさせたくなかったんだよ」
『死にたいの我慢したっ、リアちゃんと執務室いたぁ…っ』
「おう、よく我慢した。えらいぞ」
嗚咽混じりの声も丁寧に受け止めてくれて、私の身体を包み込んで撫でてくれる。
いいのかな、こんな風にしてもらって。
この人はどこにも行っちゃわないのかな。
「……昨日は?飯ちゃんと食えた?」
『…んーん』
「そうか、じゃあ今日こそ飯作らせてくれる?」
『作ってくれるの…?リアに?』
「いくらでも作ってやるよ、満腹になるまで食べりゃいい」
『何にも返せるもの持ってないの…、お金と身体しか、持ってなくて』
「いらねえよ、自分のために使ってそれは」
自分のために使えなんて、初めて言われた。
お金も…………身体も。
『…一緒にいていい?』
「おう」
『ご飯食べていいの?』
「勿論」
『お風呂も一人にしない?』
「……そんなに入りてえの?」
『離れるんだ』
「分かった、入るから」
『………………うん』
