第10章 アザレアのひととき

『ていうかあの、ここまでしていただいてて今更ですけど…仕事終わったんならなんで帰らなかったんです…？』

｢覚えてねえの？お前が一緒に寝ろっつったんだぞ｣

『…………えっと、なんで帰らなかったんですか？』

｢可愛い部下に一緒に寝てくれってお願いされちまったからな｣

律儀に二回答えてくれた。
いや、そうじゃなく。

『か、可愛い部下って誰…？中也さ…か、可愛い部下がいるんだ、へえ』

｢何また変なこと言ってんだよ｣

『だ、誰？その部下…中也さん、が、可愛がってる部下とか聞いたことないのに…』

｢……あの、リアさん｣

『！は、はい』

｢貴女に一緒に寝てほしいってお願いされたから、俺は言うこと聞いて一緒にいたんですよ？｣

『…………………他の人のこと可愛がってるんじゃ、ないの？』

｢こちとらお前一人で手一杯だよ｣

『違うんだ？？？』

ふぅん、と、彼の方にそっと近付いていけばよしよしまた撫でられ始める。
悪くないわね、この感じ。

｢リアさん以外可愛がってねぇから安心しな｣

『…♪……えっ、いや、別にそこまで言ってないです』

｢おう、とっととデート行きますよお嬢さん｣

『デート！？聞いてな…』

｢嫌？｣

問われる言葉に胸が掴まれたような気さえする。
こ、れ…いや、でもこの人は私に一晩中何も手出ししなかったような人だし、何かを無理強いしたりはしないはずで…？

しないのに、デートって何。
いや、えっと…えっと、

『…な、なんで私とデートするんですか？……あ、の…デートって、“そういう人”とするんですよね』

｢俺はなんかあったら責任取ってお前のこと嫁にするくらいの覚悟で誘ってるけど？｣

サラッととんでもないこと言った、この人。

『つまりどういう…？』

｢…お前のこと気になってるから誘ってる。それじゃダメか？｣

『気になってるって何』

｢控えめに口説いてるんだけどなこれ。デートご一緒してもらえるくらいの仲だと思っていいのか、教えてもらっていいですか？｣

『……や、やなことしないなら…別に』

まさかこの人からそんな風に言われるなんて、思いもしなかったのに。

｢一日色々ぶらぶらして、食事に付き合ってもらったら家まで送るつもりだよ。安心しろ、嫌って言われたら何もしねぇから…手は繋いでもらっても？｣

『だ、ダメ』

｢りょーかい｣