第10章 アザレアのひととき
「…そういやお前さ、なんで俺の事幹部呼びなの」
『え、何言ってるのか全然「仕事」……め、上の…人だから』
「他の奴らからしてみても目上だろうが?」
『ぅ、でもあの…』
「今日一日名前呼びな」
そういうのパワハラって言うんですよ。
言いかけて押し黙った。
ダメだ、今日ばかりは本当に頭上がらないし…反抗しても言い伏せられるのが目に見えてる。
「試しに呼んでみ」
『…な、なか…はら、幹部』
「幹部無し」
『低身ちょ「あ???」…で、でも私他の人みたいに…あの……付き合い長くない、し』
「俺がいいって言ってるんだから気にすんなよ」
『呼んだら変かなって』
んなことずっと思ってたのか?
言いながら、着替えを終えて更衣スペースから出てきた彼の手が頭に触れるのに、目を瞑る。
「俺がここまで特別扱いしてる部下が他のどこにいるんだよ、言ってみろ」
『…特別、?』
「おう」
『……ち…、…なかはら、さん』
「中也さんでいいだろ、なんでやめた今」
『怒られるかなって思、…ッぁ』
「…いいよ?許可してやる」
酷く優しい声色で、受け止めてくれてしまう。
本当にやめてほしい、私のことなんか忘れてるくせにすぐにそうやって誰にでも優しくして。
『ちゅ…ぅ、ゃ…さん』
「おー、呼べたじゃん。よく出来ました」
『こ、子供扱いしないでもらえますか!』
「子供扱いされてろ」
『ほんとにやりたい放題ですね今日!?』
更衣室をかわってもらったところでとっとと着替えを済まして外に出ると、待っていたと言わんばかりに上着を構えられていて。
『…なんの真似ですか』
「着せてやるよ」
『何それぇ、もうほんと意味わかんないこの人ぉぉ…っ』
半泣きになりながら言われるがままにお世話された。
髪をとかされ、ご丁寧に軽くヘアアレンジまでされて、しまいめにはネイルだって塗られ始めて至れり尽くせりの身支度コース。
なんで私がやってみてほしかったこと分かってるみたいなことするのこの人。
「っし、こんなもんだろ。いつにも増して可愛いぜお嬢さん♪」
『チャラい人きらい!!』
「俺別にチャラくねぇだろ」
『かっ、簡単に可愛いとか言わないでびっくりするから!!』
「え?本当に可愛いけど?似合ってるし」
『勝手に言ってれば!?』
…たまに髪巻いてこよ。