第10章 アザレアのひととき
断って、しまった。
向こうから聞いてくれたのに…繋ぐ?って。
いつもの癖で、反射的に。
今日を逃したらもう繋いでなんてもらえないかもしれないのに。
「…どうした?食べたい食材なかった?」
『え、ぁ…なんでも大丈夫です』
「じゃあ適当に作るけど…座ってていいぞ?折角オフなんだ」
『い、やその…』
手の行き場を失って、何を言っていいか分からなくなる。
「聞きたいことでもなんでも言えよ、全部ちゃんと聞くから」
オフの日の幹部様は、度量がいつにも増して大きくなるらしい。
そういえば休みの日に一緒にいるの、初めてかも。
いつも一方的に眺めてるだけだったし。
『…………あの、私の手触ったら中也、さんが…やな思いするから』
「はあ?それなら自分から言わねえだろ」
『い、異能みたいな感じであの…とにかくあんまり気分が良くないことになるの』
「それ言うってことは、繋ぎたいってことなんじゃねえの?」
ほら、と差し出される手。
それにおずおずと伸ばしかけるのを簡単に取られてしまって、勝手に繋がれてしまう。
触って、もらえた。
__ほんと可愛い奴__
『!?♡…あ、貴方頭おかしいんじゃないんですかほんと…ど、ドMですか、こんな奴とデートしたいとか、口説いてる、とか…あの…っ』
「あのな、そういう相手じゃなかったら頼まれても同じ布団に入って寝たりしねえからな?男として」
『う、っ…だ、だって私なか…中也さんにあの、怒られてばっかだし』
「いつものことだろうがそれは、可愛がってなかったら相手にしてねえよそもそも」
__あんだけちょっかいかけてくるくせして何今更嫌いなふりしてんだこいつ?__
__散々構えだの他の女とイチャつくなだの泣いておいて、寝て起きたらこの調子かよ__
『そんなこと初めて聞いたもん…!!?』
「時間かかってもじっくり慣れさせていってやるからな。素直になってりゃ馬鹿みたいに可愛らしいんだからお前」
『馬鹿じゃない!!!』
「言ってねえって」
とりあえず調理すっから一旦離すぞ、と声をかけられてから離れる感触。
不意に無くなる人肌と温度に、口をついて間抜けな声が出た。
『え…、』
「!……横来るか?」
『…』
言われたように隣にまでつめていってから、きゅぅ、と彼の服を掴んで捕まることにした。
「危ないから手出すなよ」
