第10章 アザレアのひととき
目を開けると、目の前には我が上司様のご尊顔。
体に回された彼の腕がたいそう大事そうに私の身体を抱きしめているのは、いったいどういう心境の変化があったのだろうか。
いや、そうじゃない、それ以前にだ。
そう、それ以前に。
『からだ、軽…』
変にまさぐられたような形跡もない…どころか、目の前の上司様からは私に手を出すのを我慢したような記憶さえ見受けられるほど。
手、出してないんだ。
それにしてもおかしいな、私が寝落ちしたなんて…よっぽど睡眠時間が足りてなかった…?
……いやまあ、そんなことよりも、せっかく頭がすっきりしたんだし今のうちにとっとと残りの仕事を片付けておいた方が良くないか。
『…中…か、幹部、離してください重いです』
腕を離そうとするのにビクともしない。
ていうか、え、この人思ってたよりも腕しっかりして…
「……っぷ、可愛い」
『…!?起きて…っわ!!?』
ぐん、と近くなる身体。
胸元に更に抱き寄せられて、頭の中がパニックになりそうになる。
『何、何!?!?なんでいきなりこんな近…ッ、あ、は、離してって言って…!』
「六時間も一緒に寝てた仲だろ?今更嫌がんなよ」
『……へ?六時間…六時間!?仕事!!!!』
「いや、しなくていいから。もう終わってるって」
『な…、え?なんで終わってるんですか』
「残りもう少なかったからやっといた」
『い、や…えっ、じゃあ私仕事全部ちゅ…か、幹部にさせて寝てたって……は?えっ、ありえない…』
頭を抱えて自分のしでかした過ちをどうしようか、思考をフル回転させる。
あれ、どうしよう、最終的に全部中也さん任せにしてすやすや寝落ちしてたってこと?
『ちょっと首吊って死んでく「アホか」ぐえ、っ』
「申し訳なく思ってるんなら、今日一日俺の言うこと全部聞け。そしたら許してやるよ」
『……わ、かりました。何でもします』
「…おう、いい子。じゃあとりあえずはあれだな…先に着替えてこい、ロッカーにあったストック洗濯してあるから」
『洗濯とかまでさせてたんですか私…』
「俺が勝手にお節介でやったんだよ。部屋着で寝かせてやれなくて悪かったな」
そんなこと言う人だったっけ。
いや、この人は昔からそういう人だったはず…う、ん、そう。
「…白縹?」
『!ぁ…さ、先にちゅうやさ……か、幹部がどうぞ』
