第10章 アザレアのひととき
「なんていうかこう、こいつが嬉しがるようなこととかありませんか?」
「中也くん相手ならなんでも嬉しがりそうだけれどねえ…?」
「だからですよ」
「ああ、うん、分かる」
少しくらいは部下を労わねばという、そういう思いから始まる議論。
なんでもいい、ものさえ分かれば大抵のものは用意してやれるだろうし。
かなり寂しがらせちまってたらしいからなぁ。
「そうだねぇ、何かご飯でも作ってあげてみたらどう?中也くん料理できるでしょ」
「…俺よか紅葉の姐さんから貰ってきたディナーの店の方がよっぽど美味いでしょう?」
「ははは、リアちゃんいいとこのお嬢様だったからどの道舌は肥えてるよ。それに本人からしたら、どっちの方が嬉しいかなんて考えるまでもないことだろうと思うけれど?」
いいとこのお嬢様ねえ?
そんなこと初めて聞きましたが。
「……クソ幹部がキモイって報告書に書いときますね、とか言われるオチまで見えましたよ俺は」
「そんなことないでしょ。リアちゃん程人からの愛情に飢えてる子だって珍しいでしょうに」
愛情に飢えてる、ねえ…?
そんな素振りを見せないこともない気がするが、そこまで…飢えてるなんて言うほどだっただろうか。
「それならそれで、俺よか姐さんなんかの方がよっぽど懐いてそうじゃありませんか?」
「とんでもないことを言うものじゃないよ、それならリアちゃんはとっとと紅葉くんの部下に配属希望とでも言って君の元から逃げ出してるだろう?」
「それは確かにそうですね…?そんなに俺のこと好きなんですか?」
「じゃなきゃ、どうしてこんな元々堅気のはずの子がこんな歳で、こんな所の幹部職に就きにきてくれるのさ」
そういえばさっきも中也さん中也さんて、可愛らしく叫んでらっしゃったなあ…?
普段はやれクソ幹部だのチビ幹部だのオシャレ帽子さんだのと小馬鹿にしてくる奴がだぞ。
中也さん、ねえ?呼びてぇなら好きに呼べばいいのに。
「……そういえば俺、こいつの好物とか知らないですね」
「おや、それは意外だね?リアちゃんそういうの分かりやすいのに」
なんだかんだ、奢るっつっても毎度食事は断られてたっけか。
そう考えると、今回みたいな事は一緒に食事をするチャンスでもあったんじゃ…
「…あ、一緒に飯食いたいって泣かれましたそういえば」
「えっ、そんなに泣かせたの!?」
