第10章 アザレアのひととき
とりあえずは日頃の礼も兼ねて、白縹に手料理を振舞ってみようと決意。
一旦執務室に戻ってから彼女を降ろそうとするのだが…これがどうにも離れそうにない。
「そんな体勢じゃ寝づらいだろ〜?いい子だからちゃんと寝てくれ、首いわすぞそんなんだと」
よしよしと撫でながら、落ち着いてきたらしい彼女に布団をかけて離れたところで、違和感。
さっきまで穏やかだった呼吸が、変に詰まったような。
妙な静寂に振り向いた途端に、ベッドから飛び起きるように距離をとったそいつが、布団に包まって威嚇するようにこちらをじっと見ているのだ。
なんだ、その表情は。
「…リア?どうした、起こしちまっ『こっち来ないで…ッ!!』!?落ち着け、俺だ…そう言うなら暫くここにいるからちゃんと見ろ、大丈夫だ何もしねえから」
両手を上げて敵意がないことを示すも、呼吸の乱れた彼女の元に駆けつけたいのが本音である。
『そんな、こと言ってまた酷いこと……、…?……あ、れ…』
壁に背をつけたところで、振動でそばにあった俺の帽子が落ちてきたらしい。
それを見るなり手で触れて、抱きしめて、どういうわけか落ち着いていく。
「り、リア…??」
『!…中也さん?』
「ええっと…そっち行っていいか?」
『抱っこ?』
「抱っこでも何でもしてや…っうお!?びっくりした」
突進するようにやってきたそいつは、布団ごと俺に抱きしめられに来たらしい。
…まさか寝起きがめちゃくちゃ素直とか、そういうあれか?
いつもの毒気はどこに置いてきたんだこいつ。
『びっくり、した…びっくりした』
「…冷汗すげえぞ、どうした?」
『!!、…あ、の…あの……』
「うん?ゆっくりでいいから言ってみ」
『…………な、んでもない』
なんでもないようにはとても見えねぇけどな。
こんな熱烈に抱きついてきて震えきっといて、誤魔化せるとでも思ってんのか。
「なんでもないことねぇだろ、どうした?」
『こ、怖いこと思い出してあの…なんで寝てたんだろ、気を付けて……ごめんなさい、私勝手に寝てたみたいで』
寝ること自体が怖いとでもいうような言い方だな。
なるほど、そりゃ一緒に寝てくれなんてせがんでたわけだ……どういう理屈かは知らねえが、よっぽどのトラウマ抱え込んでるらしい。
「…いいじゃねえか、なんならもう少し寝るか?今なら付き合ってやるけど」
