第10章 アザレアのひととき
『ご飯一緒に食べてくんないし、こっち全然見てくんないし、仕事手伝わせてくれないし』
「おーおー、出てくる出てくる。その調子だ全部言っちまえこの際」
『……リアのこと寝かせるなら一緒に寝てよ』
「リアさ〜ん、女の子が野郎に一緒に寝てはアウトですよ。覚えてください」
「まあまあ中也、そう言わずに寝てやればいいじゃろう?本人がいいと言っておるんじゃし」
__いい子じゃなかった…?__
弱々しい声と一緒に、涙がぽた、と落ちるのが分かった。
さっきから様子が変だ、素直になったにしてもここまで感情的になるなんてことなかったのに。
「いい子じゃねえって…いや、お前は充分よくやってくれてるだろ。だから全然休んでていいぞって…」
『……リア、中也さんにいらない?』
「はあ!?いらねぇやつ傍に置いとかねえだろ俺が、馬鹿かおまえ!?」
『いるって一言も言ってない…いらないいらないって、ここ一週間くらいずっと、いらないって…』
率直に言うと非常にめんどくさいぐずり方をなさっているのだが…なんというか、それが分かってるから多分我慢していたのだろう、この子供は。
あくまで俺の推測だけれど、こいつはただ本当に俺に尽くしてくれようとしていたし、それを負担にさせないようにとやんわりと断り続けていたが。
結果として、まさかここまで思い詰めさせることになるなんて誰が思う。
「…いてくれればそれでいいじゃねえか、お前だってほとんど休めてなかっただろ?」
『……』
「…………ん?…もしかして、俺にコーヒーいれてくれた後に色々聞いてくれてた?」
ありえないことでは無い。
俺と面と向かっていないところで俺の事ばっかり考え込んでくれちまってるらしいこのお嬢さんは、俺が見ていないところでどこまででも気を使ってくれるし、どこまででも尽くしてくれていて。
『は…、別に』
口が悪くなるのは決まって俺に何かを誤魔化したい時だ。
「…リアは毎日珈琲を何度かいれにいっておったのう?一杯分じゃったけど、あれは中也のために入れておったのか?」
『違うもん』
「お前珈琲飲むっけ?」
『リア珈琲好きじゃない』
だいぶ弱ってんなぁ、本音丸出しになってますが…
なるほど?そりゃあ俺が悪い…いい子ちゃんすぎるんだよ、配慮が行き届きすぎて分かり辛ぇったらない。
「今から俺にいれてくれるか?」
