第10章 アザレアのひととき
こんこん、とノックして、少ししてから開けられる執務室。
そして中には…何故か女に抱きしめられている、私の上司様がそこにいた。
ポトッ、といただいてきた仕事の書類を思わず床に落としてしまったところで、彼は紅葉さんの後ろに私がいた事に気が付いたらしい。
「白縹…っ、手前一体どこに…!?ちょっ、いい加減に離れろ!なんなんだよ突然!!」
「ほう?リア、戻りにくかったのは“これ”が原因か?」
紅葉さんの声で、その場の空気がずん、と重くなったような気がした。
女構成員はといえば、そこでようやく幹部である紅葉さんがいると気がついたようで、顔を青くして彼から離れている様子。
「戻りにくかったって、!?な…っ、泣いて…!!?」
私が人のことを不潔だなんて言う資格はない。
無い、けど…何も言えないのは、それはそれで苦しいものだ。
『……お好きに、どうぞ…っ…また後で来ま「待てって!?違ぇんだよ、これは今いきなりひっつかれてきただけだから!!」リアといるより仲良い人と一緒にいる方が幹部も仕事捗りそうですもんね、ごめんなさ___』
手首を掴まれたかと思えばそのまま腕が回ってくる。
外に出るなとでも言わんばかりに抱き寄せられれば、余計に惨めな気持ちになってきた。
…え?抱きしめてる?
「仲良くねぇから、どっか行こうとすんな…」
『……だっ、…抱っこ、して』
「俺がしてる相手は誰だよ、考えてみろ」
『ち、近い!!どっか行って変態!!!』
「姐さん、こいつどこで見つけました?連れてきてくれてありがとうございます」
「そなたが構ってくれんと憂鬱そうに鴎外殿に仕事を追加でもらっておったようじゃが?」
じ、と彼からの視線を感じるのに何も言えなくなる。
『……な、何。違うから』
「おまえ俺に構ってほしかったの?ずーっと?」
『違うから!!!』
「そうって言やぁいいのに?悪かったな気付いてやらなくて、戻ってこいよ。ここはおまえの場所でもあるんだから」
『………他の女と抱き合ってた部屋』
「抱き合ってねえって、被害者だぞ俺は」
落ち着け落ち着け、と撫でられ始めるのに一瞬ビクリと肩がはねるが、続けられているうちに少しは慣れてきたのか、あまりリアクションを見せないですみそうな…いや待て、変化しちゃダメ、変化しちゃダメ。
『…!?だから違うってば、クソ幹部!!!』
