第10章 アザレアのひととき
結論として、二人ともの分を彼が見ることになってしまって、私は私でどこか疎外感を感じてか居心地も悪くて、外に出るしか出来なくなった。
今日は…うん、拠点にそもそもあいつもいなさそうだし、多分大丈夫。
「…?あれ、あいつは確か」
「うん?…!白縹殿」
『え…?あ、広津さん。お疲れ様です』
首領直属の遊撃隊…武闘派組の黒蜥蜴。
中でも親交の深い広津さんは、いつも私に気付くと優しく話しかけてくれる。
「お疲れ様です。どうしてこのような…廊下に?」
『……サボり?』
「ちょうどこれから夕食をというところなのですが、一緒にいかがですかな」
『ごめんなさい、お腹すいてないの。また誘ってください』
「中原さんと何かあったか」
そして優しいといえば、この人が今となっては筆頭だろうか。
芥川龍之介さん。
『何にもないですよ』
「それならば構わないが」
…いいな、中原さんって呼べるの。
私が呼んだら嫌がらないかな。
中也くんはさすがに怒られるだろうし。
『ちゅ…、な、かは………か、幹部はその…まだちょっと忙しそうで』
「?そうか」
いや、でもさっきの女は中也さんて呼んでたっけか。
気に食わない、中原さんの仕事増やしに来ただけのくせに。
女狐め…いや、女狐は私か。
『……仕事してきますね』
首領のとこ行って色々させてもらお、頭使ってる方がまだマシだ。
まあ、一回も帰ってない上に本当に仮眠も挟んでないわけだから、ちょっと変な感覚になってきてる気がしないこともないんだけれど。
広津さんや芥川さん達と別れてから首領の元へ向かい、とっとと中原さんを解放してよと言わんばかりに不満な眼差しを向けてから無理矢理彼の仕事をもらってきて。
仕事する場所、考えてなかったな。
どこに行こう…あんまり知り合いが多い訳でもないし。
「おや…リアじゃないかえ?」
『!紅葉さんっ』
知ってる人の声がして、少し目の前が明るくなったような気がした。
顔を上げて駆け寄ってみれば、よしよしと撫でられる。
わぁ、紅葉さんと出会えるなんて…出歩いてみるものだなあ。
「どうしたどうした、中也は一緒じゃないのかのう?」
『…うん、あの人はあの……うん』
「…ふむ、ちょうど彼奴に用事があってこれから行くところなんじゃが…良ければ一緒に行くか?」
『……紅葉さん大好き』
