第10章 アザレアのひととき
「っあああ…さすがにこんだけ書類ばっかじゃ疲れたな。白はな…って、寝てんだった危ね__」
彼に、久しぶりに呼んでもらえたから。
反射的に体が動いて、気付けば彼の隣に座って待機してしまっていた。
尻尾を生やさなかっただけセーフだろうか。
「…何してんだ手前?」
『よ、呼ばれたから』
「いや、いつ起きた」
『呼ばれた、から』
「さては起きてやがったな」
むんず、と頭を掴まれるも、今日ばかりは嬉しいものだ。
こんなにリアのことだけ見ててくれる。
こんなにずっと触っててくれる。
中原さん独り占めしてるみたい、いいなこれ。
『怖〜〜〜』
「…?……おまえこっち籠ってる間飯どうしてた?」
『え?普通にお腹すいたら食べてましたけど』
「痩せてね?」
『……キモ』
「んなッ、!!?俺はただ心配して聞いただけでだな!!」
きゃっきゃといじって遊んでみるけれど、その実気付いてつっこまれてしまったことには驚かされたし、食べなかったことを責められないかどうか考えるのに必死であるが…なんで、分かったんだろ。
なんてところに、ノック音。
外の相手は部下であったようで、仕事をまた持ってきたそうな。
そんなの、自分の直属の上司に回しでもして自力でできる所まで解決してきたらいいものを。
「中原さんすみませんこれと…」
「中也さんすんません、こっちも」
「手前らもそろそろ慣れろよなぁ…?ったく、みせてみ『あ、それ私が行ったとこだ。私が教えますよ、どうぞこっちに』えっ、おい?」
勝手に離れて自分のデスクで請け負いつつ、依頼を持ってきた男女二人組の様子を観察する。
判が必要な書類でもなければ、メールでどうとでもなるような範疇のもの。
まあ、まさか私がいるのにこの人に手を上げるような真似をする輩はなかなかいないでしょうけど。
__またこいつか、準幹部なんざ聞いてねぇぞ、こっちだって昇進かかってっかもしれねぇのに__
__中也さんの腹心の女って、どんな奴かと思えば…__
あ、違う、こいつら下心ばっかりの奴らだった。
片方は私の手柄を、虚偽の報告で自分のものにしようとしてるろくでなし…もう片方はといえば。
「でも私は中也さんに聞きに来ましたから…」
「…まあ手前ももうちょっとゆっくりしとけ、こっちは俺が見てるから。な?」
『いや、私は…私、は…』
