第10章 アザレアのひととき
失言だ、なんて失礼なことを言ってしまったんだ。
この人は私を大事にしてくれているから、だからこうしてくれているのに。
恋人に向かって私今、最低なこと…
『…!!ち、違…あの、違う、から…!言い間違えたの、だから気にしないで…っ』
「?何そんな焦ってんだよ」
『だ、だからあの…わ、たし…』
堕落してる。
甘やかされて、自分を肯定してくれる彼に、全て擦り付けようとした。
ただでさえ彼の何もかもを私が奪ってしまっているのに。
ただでさえ彼の自由を搾取しているのに。
これ以上を求めて、彼の優しさにつけ込んで。
ふと、頭に手が触れる。
「ん?いいよ、俺は。元から育てるつもりだったっつってんじゃん」
__ったく、まだ我慢してやがったか__
『!!、り、リアに触ったらあの…っ』
「…何、手だけじゃ寂しい?」
椅子から立ち上がって、こっちに来て…力強く、両腕で包み込んでくれて。
『ちが、…』
怖い。
こんな、悟りの力を持つ私なんかにくっついて…くっつかれて。
いつもいつも、好きで私を満たそうとする。
嫌でしょ、嫌なはずでしょ、私にどこまで悟られるか分からないのはずなのに。
生まれた直後に私の目の色を見て、私に触れなくなった両親達と何度出会ってきたか、もう憶えてもいないのに。
知ってる、知ってるの。
生まれる度に、真っ先に私の目を開けて見られるの。
それで毎回、大人の汚い欲と、侮蔑の勘定を最後に別の人間に預けられる。
上と下とに過去存在してきたことのあるきょうだい達と、違う。
双子とさえ、違う。
自我が芽生えるまでは覚えもしないはずなのに、私はこの力で全てを記憶してしまう。
「リアにそこまで思ってもらえるなんて幸せだよ、俺は」
おかしなことを、言う。
幸せ…しあわせ?
「高熱出してぶっ倒れてる時の方がよっぽど素直だよお前は…とっくにお前から言われてるっつのこっちは」
『…ど、いう…』
「リアのシークレットサービスする前から、お前に甘えられてたことならあるってこと」
記憶にない。
悟りもしなかった、そんなこと。
「俺にお世話されたかったの知ってるけど?」
『いつ…』
「内緒。風邪ひいたリアと俺だけの秘密らしいから」
言ってそう、本当に。
『……ご飯』
「お、気に入ったか」
『だいすき』
「おう」
分かってるのかな…?