第9章 蛍石の道標

｢ﾌﾟｯ､そんな怒んなよ…っｸｸ､｣

『なんで反論してくれないんですか中也さんの馬鹿！！』

｢いやあんまりにも可愛っ…はは、ダメだ思い出し笑い止まんねぇ｣

この人のツボが分からない。

『…もういい、行こ、マーク君』

｢えっ、僕はいいけど｣

『ふんだ、こんな馬鹿男オカマに襲われちゃえばいいのよ』

｢あ？俺リア以外相手にするつもりねぇけど｣

瞬間、廊下の絨毯につまづいて転ける。

『…』

｢…え、リア？今どうやってこけたの？｣

『転けてない。ちょっと寝てるだけです』

我ながら苦しすぎる言い訳だとは思う。
…リア以外相手にしないって言った今、リアしか相手しないって。

｢危なっかしいな本当に…それとも俺に抱っこして欲しくてわざとやっ『はにゃ！！？』リア！！？｣

からだを起こしたところで、支えにしていた手が妙にリズムよく滑ってくれて再び視界は天井に。

｢中也君、この子こんなアホの子だっけ｣

｢アホの子言うなよ俺のチョロ子に｣

待て、今この人なんつった。

｢君のが酷い言いようだって分かってる？まったく…ほら、大丈｢！見んな手前は｣ﾒﾂﾌﾞｼ！！！！｣

こちらに手を差し伸べようとしたところで、中也さんに目を潰されるマーク君。
のたうち回るように悶えている、いやあれは痛いでしょどう見ても…

｢…見えそうなんでちゃんと隠しといて貰えます？お嬢さん｣

が、私の上体を起こしてからめくれ上がった彼の外套を下ろされて、ようやっと事態を把握した。

『…はぇ、…は、い』

な、何、何いきなりそれらしい事してんのこの人、いつものデリカシーのなさは！？

抱き寄せられて軽く撫でられるのに胸がまた煩くなる。

｢よし、いい子…分かったら勝手に離れて走らない。いいな？“転んじまったら”大変だろう？｣

＿＿このクソ野郎、どさくさに紛れてリアの手握ろうとしやがって＿＿

『…あの中也さん、目が笑ってないんですｹﾄﾞ』

｢俺と離れたらすぐ危なくなるんだからなぁリアは？？｣

＿＿次触ったらぶん殴る＿＿

『中原さん、言ってることと思ってることが全然違う気が』

｢手前リアに漬け込んだらそん時は覚悟しとけよ変態が｣

遂にダイレクトに言った。
え、ええ…貴方人に向かって変態って言えないでしょ。

｢理不尽…！！助けてリア！！｣

『えっと…で、出来るだけ…？』