第9章 蛍石の道標
頭がぼうっとする。
死ぬほど色々考えて、頭の中がごちゃごちゃしていたのが嘘みたいだ。
『…貸ひとつだから』
グリグリと本能的に頭で彼の胸元に擦り付く。
他の人の匂いつけてきちゃって、妬ける…
「いくらでもつけといていいよお前は」
『ひにゃッ、!!♡』
くるくると遊ばれるのに尻尾が揺れる。
分かってんのかしらこの人、こんなことして許すのなんか自分くらいのものだって。
「また泣いたんだろ、目そんなにして…頑張ったなぁ」
離れてただけで、それを我慢してただけで褒めるとか。
親バカがいきすぎてるというか…こんな風にされたのも久しいというか。
親にも、されたこと無かったのに。
生まれた瞬間に自分のことを覚り、言語を話す口だけは発達していないのであれだが、大抵の感情は自分でコントロール出来ているのが毎度のこと。
要するに、比較的手のかからない赤子、それが私。
そのまま軟禁生活の始まり。
親はそもそも会いになど来ないし、会食やパーティーなどでの彼らの飾り物として私はそこに連れていかれるだけ。
離れるのを惜しんだところで、監禁状態が酷くなるか…それなりの躾をされるかの地獄でしかなかった。
両親とは似ても似つかない見た目の私。
ひとりぼっちなんて、ほんとは…ほんとは……
「…明日一日、諸々の確認作業と報告まとめて提出したらそのあとはもう自由時間。明後日は休みだが…どこか行きたいところのリクエストは?リアちゃん」
『……、え…?』
急に情報を与えられて、切り替えられなかった。
ダメだ、こんなんじゃまたこの人に気を使わせる。
ただでさえ、わがまま言うのを許してくれている人なのに。
『あ…、どこでも』
「どこいっても俺のこと独占し放題ですよ?」
ぴく、と魅惑の言葉に反応する。
そう、なんだ…独占し放題。
ちらりと顔を上げてみると、本当に優しい穏やかな瞳を私に向けているものだから、困る。
『……わかんな、いの…娯楽施設、とかそういうとこ。……行ったこと、ほとんど無くてその…』
「娯楽施設じゃなくてもいいぞ?食べたいもののリクエストでも。俺リアが美味そうに食べてんの好きだし」
この人はまたサラッとこういうことをいい笑顔で言うから罪な人なのよね。
『、…中也さんのご飯が食べたい』
「俺のはいつでも食べれることないか?」
『…覚えてたいの』