第9章 蛍石の道標
納得いかねぇ、何もかもが納得いかねぇ。
『恥ず、っお、乙女の恥ずかしいと、こっ…見っ、見て…見…っ』
「リア、お前なんで中也さんにだけそんな…」
『あ、っ当たり前でしょう!!?!?恥ずかしいの!!!』
「納得いかねぇ…」
ヒリヒリする左頬。
大した痛みはないが、しかし理不尽にも程がある。
「んで、手前うちのリアに何してやがった変態」
「酷い言いようだね?君友達いないでしょ」
「ほっとけ」
「否定してくんないかなせめて??…題して、“中也くんの気を引こう大作戦”だよ。分かる?鈍感中也くん」
手前にんな呼び方されっと妙にイラッとすんのはどうしてだろうか、本能が殴れと言っている。
気がする。
「…じゃねえ、俺の気?なんでだよ」
「仮にも元婚約者で自分のことまだ好きだっつってる男のとこにホイホイやられたのが嫌だったんでしょ。あと相当離れたくなかったみたいだし?」
感謝してよね、泣いて泣いて大変だったんだから。
軽い言い方をしているが、その実それは事実なのだろう。
泣き跡も確かにあった。
目、赤かったし。
「…俺の気引くために体張らせすぎだろ、もっと他に方法なかったのかよ」
「だって、どうしたら大人の男の人がドギマギしてくれますかーって質問されるんだよ?悩みに察しがつきすぎて下手に誤魔化しても可哀想じゃない」
「はあ?大人の男ドギマギさせるとか、何言っ…は…?」
また馬鹿なことを、と思ったのだ。
立原にあやされているリアを見て、そうじゃないと察した。
俺か、だから立原まで止められなかったのか。
大人の男って、俺のことか…。
「わかった?鈍感中也君。君、余裕あるふりするのが上手いみたいだけど…本人的にはもうちょっと好かれてるって実感させてほしいみたいだよ?」
「…手前中々ちゃんと話せる奴じゃねえか」
「まあね。ほら、あの子も分かんないんだよ…先祖返り相手なら何回も交流してるだろうし、癖とか反応とか性格とかでどんな風に思われてるかとか分かるんだろうけどね?僕もだけど、君は“今世で始めて出逢った人”だろう?」
「だからって、実感ねぇ…スキンシップじゃなくか?」
「はは、いつも見てるんなら分かるんじゃないの?異性のこと意識するって感覚初めて身につけたような子なんだよ、あの子」
だからって、そういう意味で気を引きたいって…