第9章 蛍石の道標
酔いも冷めてきたのを見計らい、グラスを片す。
「おや、中也。もう良いのかえ?」
「紅葉君、中也君はほら」
「…ほほう、本当にリアの事が気に入っておるようじゃ、あんなに嫌っておったのに」
「別に嫌っては無いですよ元々」
目を丸くしてから目配せして、ぷっ、と笑う二人。
本当のことなのにどういうことだ。
「そういえば、嫌ってはないってずっと言ってたねぇ?気に食わないとかふざけてるとか、散々言ってた割には」
「俺が嫌いになったらあいつ、泣いてたでしょ」
「おや、気付いてたのかい?」
意外そうな顔を向けられる。
まあそりゃそうか、あいつの弱みに乗じて甘えさせたようなことは他言厳禁…リア本人でさえもが忘れていることがあるほどのもの。
「の割には全っぜん懐きませんでしたが」
「?リアは最初から懐いておったじゃろ、緊張してか気を張っておったただけで」
最初から。
そこまではっきり言いきった紅葉の姐さんの方を向いて、尋ねる。
「最初からって…何故そんな風に?」
「何故って、あの子がここに入ったのだってそもそも中也の傍にいたかったからじゃろうて。違うか?」
「ああいや、紅葉君。そこのところ中也君もちょっと記お「ああ、思い出しましたよそれも」…んん?それって…その、リアちゃんのこと?」
それならちゃんと聞いたよ、だから今もこうして…
続けられる言葉に、本当に自分は情けなかったのだと再認識させられた。
「違います、ちゃんと…七年前のこと」
「ほう、ようやくか。罪な男よのう?」
「あいつも多分、俺が覚えてなかったこととっくに悟ってたからあんな感じだったんでしょう?」
「ちゃんとお礼は言ったのかい?」
「……それがまだ、タイミングを逃してまして」
大恩が、ある。
分かっているのだが中々に言い出しづらい。
というのも、雰囲気というか、シチュエーションというか…簡単に扱える話でもなければ、ただのお礼で済ませていいようなものでもなくて。
どうして記憶から抜け落ちていたのかは、それこそリアに聞けば分かるだろうか。
こんなにもお前に救われていたというのに、俺は。
「言うべきことは、言える内に言っておく方が良い。特に…あの子は覚りの先祖返りじゃからな。いくら伝えたとて足りんじゃろ」
「それなんですが、少し考えがありまして」
「考え…??」