第9章 蛍石の道標
立原道造の執務室。
そこにたどり着いたはいい。
しかし俺の首元に腕を回してしがみついたまま狐耳と尻尾を萎れさせ、ここに来てようやく素直になりやがったリアお嬢様。
「リアちゃん、すぐ戻ってくるぞ?三時間も要らない」
『中原さん行っちゃ…っ、行っちゃや、ッ…や…っ!』
「うっわぁ、すげぇ嫌がりよう…中也さんなんとかしてくださいよ、分身するとか」
「無茶言うなお前、それが出来りゃとっととしてるわ」
めちゃくちゃ嫌がって駄々こねてくれてるけど悶え死にそうな程に尊いものだ、これも。
勿論写真におさめた。
「さながら保育園児だぞこれじゃ…」
『いいもん、中原さんいるなら保育園児でいいもん』
「まあでも今日朝っぱらから幹部会議に部隊ミーティングにで離れっぱなしだったもんな。こんな離れてたの多分初めてってレベルで」
よしよしリアちゃん、ずっと我慢してたもんなぁ。
全力で肯定する俺を見て立原が引く。
仕方ねぇだろ、こんなことされたら誰だって全肯定するわぼけ。
『…ッ、…ちゅうやぁ…!』
キュン。
あーダメだこりゃ目眩してきた、立ちくらみだ、呼吸困難だ。
「ダメだこの人………!ってあ、思い出した。リア、お前に今日客が来るって話したっけ」
『中也さんの後にしてください』
「終わんのいつだよ」
「こんなタイミングで客?誰だよ」
「“天才スナイパー”って言えばわかるとしか言われてないそうですよ?」
『変態スナイパーの間違いでしょ』
静まり返る空間。
しかし、見事に泣き止んだ。
おお…?
「知り合いか?」
『リアのしもべ』
「しも、!?!?」
「…どのしもべだ?」
反ノ塚、御狐神、渡狸、蜻蛉。
場合によっては夏目もそうだろ、あと雪小路。
『リアに結婚申し込んでたあいつですけど?』
「遂にここまで追ってきやがったかあいつ」
『そういえば手続き何にもしてなかったや、それは話しなきゃ』
連絡先知らないし、とどこか元気が戻ってきたようなリア様。
…ん?俺まさかあいつに負けた?
「リア?手続きって??」
『?マーク君、妖館に住むことになったから』
言ってねぇええ、一っ言も聞いてねえええ…
『中也さんが使うはずだった部屋、いらないでしょ?あそこ』
「は、はは…リアちゃん、立原を連れてけ、いいな」
「えっ、なんで俺「いいよな?」ハイ」