第9章 蛍石の道標
「治す、って…どうやって」
『…上書き』
「は…?」
思考が停止する。
それと共に何を要求されているのかを理解して、心臓が煩いくらいに跳ね始めて。
『何盛られたか、とか…慣れてるし、分かってるの。……で、も…自分でした、ことない……か、ら…中原さ、ん…きもちく、して』
皆まで言うなこの馬鹿、んな事していいわけねぇだろ。
「俺にっつったってお前な、冷静になれ。自分からんなこと、そこいらの男に頼み込むやつがあるか」
『そこいらの男じゃないもん…っ』
初めて、強く意思表示するそいつに驚かされる。
いつものらりくらりで肝心な本心なんか見せてくれない奴なのに。
『そ、んな人に…身体見せな、っ……キス、なんか…』
馬鹿野郎、お前大事なことが何も分かっちゃいねえんだよ。
身体なんか勿論だが、キスなんか…そんな大事なもん。
自分がこの世で一番愛してる相手に捧げるもんだ。
自分からそれをせがむなら、それをちゃんと自覚しないと…いけねえのに。
「…薬の効果をマシにするのと、上書きな?限度はあるけど…慰めるために使われるんなら、いいよ」
『!、中原さ「ただし、ここにキスはしねぇ…本番行為も無し。いいな?」…あ、え……?ど、いう…』
「好きな相手に強請るもんなんだよ、そういうのは」
自分で言ってて、胸が高鳴って仕方がない。
なんなんだよお前ほんと…せめて自覚してからなんでも言ってこいや、相手が俺じゃなかったら我慢してねぇかもしれねえのに。
照明を消して、遠くにあるスタンドライトからぼんやりと伝ってきた明るみを頼りに、額と、頬と口付ける。
キスされてたら、怖くない…そういうことでいいんだよな…?
「…何泣いてんだよ、やめとくなら今のうちだぞ」
『!な、泣いてな……、抱っこ…し、てくださ…』
「ちゃんと強請れんじゃねえか。…まともにこんなことした事ねぇから、痛かったり怖かったりしたらちゃんと言え、いいな?」
『……だ、黙っててパワハラにしてあげます』
「じゃあ特別優しくもてなしてやんよ」
耳を唇で柔く挟んで、舐めて。
『ッそ、や…み、みダメ…ッ待って、待ってイっちゃうッ!今それすぐイッ、あ、きちゃッ、あ、アッ…!!?!?』
「…もしかして感度かなり高い方?」
『こ、なの初め…て、…っぁ…、』
「可愛いじゃん」
『へ…っ、…え…ぁ、…っ…?』