第9章 蛍石の道標
執務室にリアを連れて戻って、再びソファーに寝かせて。
いたってなんの変化もない執務室。
しかし、床にボタンがいくつか転がっていたり…明らかに行為に及ばされていたであろう染みが見受けられる。
一人で、それも病気してしんどいのにこんなところで自慰行為なんざ…するような奴じゃないだろう。
それに、それだとこの服に説明がつけられない。
と、そこで腫れている頬に気が付いた。
「…これ、叩かれた?腫れてる」
『ッ!!な、なんでも…っ』
「お前そこまでドジじゃねえだろ…悪いけど身体見んぞ。手当くらいさせろ」
『身体、見…っ…あ、服や…ッ』
「…、ゆっくりでいい、急かして悪かった」
ボタンに手をかけたのを、止められて我に返る。
そうだ、“その”可能性のある相手にいきなりこんな…怖いに決まってんだろ、こいつにしたら。
『……っ…き、す…してくれた、ら…いいよ』
「ぶ、っ…!!!」
なんてこと言いやがるこの小娘。
冗談…言ってるわけじゃなさそうなのがまた。
「…そういうのは、だな…好きな相手にとっとくもんだ。いいか」
『……いいって言ってるの、』
抵抗というものはないんですかねお嬢さんには。
「はいはい、俺より良い奴見つけろお前は。こんなろくでもねぇ男にほいほい触らせ『優し、く…するつも、りないのに……見るん、ですか…、』…お前、」
そういう、ことかよ。
怖いだけなら…そう言や、いいのに。
顔を近づけていくと、キュ、と手を握って…それから、目を瞑る。
それさえ怖がってるくせして、なにが優しさだ。
唇…は、避けた。
額に落とした。
こんな事のために、奪っちゃいけない。
ましてや、するにしてもお前の弱みに付け込むようなやり方は好きじゃない…まだ自分の覚悟さえ決まっていないのだから。
『っ、…ぇ…あ、』
「“こっち”にしてほしけりゃ、大人んなって出直してきな。…やましいことしねぇから、服。いいか」
『……、はぃ』
拍子抜けしたような顔。
腰元まであるシャツを脱がせば…胸部を隠しもせずに、俺に委ねてしまうリア。
いいのかよ、年頃の女がそれで。
「……ここ、右腹どうした?青くなってる」
『…棚で打った』
「…非常に申し訳ないんだけど、その…胸、は。どうした。見せなくていいから」
鬱血して、歯型まで。
『治してくれる、?…中原さんが』