第9章 蛍石の道標
耳に、首と背中、鎖骨…そして胸。
それらを愛撫する内に達して、俺にしがみついて鳴いて、ぷつりと糸が切れたようにして気を失ってしまったリア。
一応病人であることに変わりはないので…元の服があれだったため、自身のスペアの服を着せ、毛布をかけて、寝かせている。
…死ぬほど可愛かったし、引きどころを見失いかけていた身としては、助けられた。
中々興奮してくれてらっしゃる俺の息子さん…家に帰るまででいいから大人しく鎮まっててくれやせんかねほんと。
媚薬使われてたにしても可愛らしすぎんだろお前、なんでそんな甘えてくんだよ、そしてなんで俺なんだよったく。
“ちゅうや…、さん…ッ”
「…あーダメだ仕事になんねぇ」
じゃなくてだ。
違う、問題はこいつがどうして外に出てきたか。
少なくともここにいれば大丈夫だったはずのものを…なんて考えていたそれが覆されてしまっては、どうしてこいつが怯えていたのか、それをようやく理解することとなる。
違うんだ、そうじゃなくて。
“一人になる”ことがそもそも、問題だったんだ。
だから執務室を俺と同じにしてくれと求めた。
…だから、熱があろうが同行させてくれと懇願した。
守秘義務もあって、幹部格の執務室周りには監視用のカメラは無い。
それを知っている人間がどの程度かまでは最早把握しきれないが、それを狙ってのものだったら。
そして…そこから逃げてきて、俺のところに助けを求めに来たのなら。
…何が助けるだ、何が安心しろだ。
ちっとも護れてなんかいない。
ちっとも、約束を守れていない。
恐らくこの様子じゃ、首領にも相談せずに飛び出してきたのだろうし、そもそも人に言えるような内容じゃあない。
行為に及ばされた部分は…見ないふりをしてやるとしても、暴行に関してはこれまで何度かあった。
こいつが隠してる分も含めればいくつになる事やら。
それに今日、外でのあの件だって結局はよく分からないままで。
どんだけのもん抱え込んでりゃ、まともに寝れない生活になる。
どんだけのもんに怯えれば、俺にさえ縋り付くほどに弱ってしまう。
「…首領、白縹の件で少しお話が」
電話をかければ、やけに優しい声色で、どうしたんだいと返される。
「……あいつに、護衛の黒服をつけることはできませんか」
「!護衛…?」
「組織の中で厄介な目のつけられ方をしてまして」