第9章 蛍石の道標
「とりあえず今日夕方から俺任務に出るから」
『へ…、?』
事の発端は、何気ない一言。
業務連絡とも言えるそれを言って、彼女をどうしようか相談すべく話に出したのはいい。
いや、良くなかったのかもしれない。
『…そ、ですか』
「…大丈夫か?」
『え、あ、大丈夫』
どこがだ、せめてこっち見てちゃんと言え大丈夫なら。
「あー…まあその、そういう事だから、俺多分戻ってくんの夜になるしどうする?先帰るなら送るし」
『やだ…』
「え…?」
やけにぐずったような声。
『……!あ、いや…リアは、着いてっちゃ…あの…、』
「…流石に高熱出してる奴連れてくわけにはなぁ」
どうしたもんか。
俺が現場に向かう限り、まあ部下一人カバーするくらいなら差し支えない。
ただ、万が一、億が一こいつが怪我でもする可能性が考えられるならば連れていくべきではないのである。
私情も勿論、そこに入っているのだろうが。
「執務室にいるのも、難しいか?」
『!や、あの…大丈夫』
寂しいのは確かにそうなのだろう。
しかし本人が言っていた、怖いという感情。
そっちの方が、今のこいつを見ていてしっくりくる。
何かを恐れているのだ。
「鍵施錠して、首領から用事がある場合は俺の携帯に連絡入れてもらおう。不審な奴が来たところで俺の執務室に勝手に入ってくるような真似できねぇから」
『っ、ほんと、?』
「おう。ピッキングして入ってくるような奴おまえくらいだよ」
ぽんぽん、と頭に手を置いて撫でてみて。
家で留守番を頼むような心境だが、試しに不審者と口にしてみたらこれだ。
そんなんじゃ本当に、何かがあったと言っているようなものじゃ…
『……夜ご、はん』
「!…おう?」
『あ、あの…その、無、無理だったらいいし嫌だった、ら…い、んですけど……き、今日…っ』
耳の先まで真っ赤にして、しどろもどろに伝えてくれる。
これじゃあまるで恋する乙女…だが、おそらく本人にその自覚はこれっぽっちも無い。
親…に強請るような感覚なのだと、心得ておく。
「今日の夜は空いてるし、お前からのお誘いなら喜んで」
『!!、よ、夜ご飯…っ』
「お、いいじゃねえか。腹すかせとけよ?」
『リアが作るッ』
「それは却下だ病人この野郎」
ぐぐ、と少し頭を掴んで力を入れてやると大人しくなった。
可愛い奴…