第9章 蛍石の道標
食券をと思って食堂用にICカードを取り出そうとしたところで、そういえばこいつの好物を知らないということに気がついた。
首領にやれ懐いただの気に入っただの言われるがために結局背中に背負ってるわけなのだが。
割となんでも食べそうな気はするが…苦手なもん選んで起こしたとして、多分こいつは無理をしてでもそれを食べる。
俺が用意したとして、ものを粗末にするような奴ではない上にとんでもなく遠慮しいな奴だから。
と、ここで本人が病人であることを思い出したので、厨房に向かい、キッチンと食材とを借りることに。
一瞬リアには起きてもらおうかと考えたけれど、用意してる間待たせているのもしんどいだろうと思うので、片手でおじやを作っていく。
それと一緒にフルーツを準備して、出来上がったそれを盛り付け、冷ましてるうちにリアを食事スペースのソファーに座らせる。
すると簡単に目が覚めたそうで、目元を軽く擦りながら顔を上げて辺りを見渡して。
『…、?食堂…??』
「ん、起きたか。飯にすっからちょっと待ってろ」
皿に盛ったそれらと飲み物とをテーブルに運んで、彼女の目の前に座る。
するとそいつは目をまん丸にして、状況をつかめずに俺に質問をなげかけてきた。
『……こ、れ、?』
「何が好きか知らなかったから、風邪ひき用の特別メニューだ」
『作ってくれたんですか?』
「おー、味の保証はしねぇから酷かったら食うのやめとけよ」
『り、あに…?リアに食べさせるために、中原さんが?』
そんなにおかしいか、おい。
少しつっこんでやろうと、思った。
なのに、やけに雰囲気が柔らかくて…作ったそれを見つめて、つぅ、と雫を一筋目尻から流していやがったから。
「…おい、どうしたよ」
『っあ、な、なんでもな…ぃ、』
すぐさまそれを拭って、何事も無かったかのように振舞おうとする。
聞かれたくねぇなら深くは追求しないが…明らかに、無意識だったろ今の。
と、そんなところで彼女が取り出してきたものはといえば。
「おい、手前何出してやがる。何のつもりだ」
『え、?防腐剤…』
「食いもんだぞこれ」
『だ、だから永久保存するために今から防腐処「食うよな??」食べたら無くなっちゃう…』
「こんなもんで良けりゃいくらでも作ってやるから早よ食え」
『…いくら、でも』
…口元ゆるっゆるだぞ、おい。