第2章 桜の前
〜後日談 太宰治氏より〜
入水は入水でも、海では確かに試したことがなかったなぁ。
陽気にスキップでも始めそうな気分で、到着。
そんな所に国木田君。
あれ、私行き先教えたっけ。
「…まさか本当に現れるとは。この、唐変木が!!!」
「ええっ、どうして国木田くんがここにいるの!!?今日はわざわざ私じゃない他の人に意見をもらって「お前を探している時に出会った人物に教えられたんだ!!」!!はっ、ま、ままままさかリアちゃんが裏切ったの…!!?」
すれ違いざまに声をかけられて、首から下に包帯を巻いた長身の男が、自殺スポットを探して港へ向かったと教えられたそうだ。
国木田くんめ、私のことを探すのにムキになりすぎてリアちゃんに声拾われてるじゃないか。
「一瞬また何かのいたずらかと思ったが、太宰治と名前を口に出されてな。来てみたら案の定お前がノコノコやってきた…さあ仕事だ。お前のせいで十五分の遅刻だ!!!」
「ぐえっ」
後ろ襟を掴まれて引きずられていく。
「…国木田くん、その子…可愛らしい子だったろう」
「あ?…ああ、まあ今時珍しい雰囲気の娘だったな」
「ふふ。あの子私の婚約者なの」
固まって動かなくなる国木田君。
冷や汗をダラダラ流しながらテンパる様子が面白おかしい。
だからいつものように、最後にちゃんと魔法の一言を添えてあげる。
「嘘だけど♡」
「…貴様ぁああああ!!!!!」
「あーもう、耳が痛いよ国木田君。…私の数年来の友人さ。とてもとても大切なね。天使のように可憐だったろう?」
私の友人と聞いて、ピタリと勢いが止む。
「お前が真面目に出勤するようになるのならば、是非とも我が社に欲しいものだな」
「そうなんだよ…タイミングが悪すぎたのだよねぇ。あの子最近ポートマフィアに入ったばかりだし」
「あ、あんな娘が…!?」
そうなるよね。
まあ、私からしてみれば森さんもいいようにやったなぁという所なのだけれど。
異能力者の偏り方や人数、規模からしてみても、うちにいるよりは確かに彼女の為だろう。
…私が無理にでも着いてきてくれと懇願しさえしていれば、きっと彼女は今頃私と共にいてくれたのだろうけれど。
あの美しい少女が、何かを見つけられそうな予感がした。
それならば私はこれからも見守り続けていようじゃあないか。
それが亡き親友の代役だとしても。