第2章 桜の前

『こ…ん、なの……初め、て…され…ｯ』

震える両手を軽く握って、口元を隠すように持ってくる。

｢こんなのって？｣

『……や、さしかった』

｢…お気に召しましたかね｣

『………立てない、です…腰、抜けちゃった』

私を抱き寄せながら、彼はまた頬に何度か口付ける。
ダメだ、自分から言ったのに簡単に堕ちちゃいそう。

｢ちったぁ女の子らしいんじゃねぇの？裸見られるより恥ずかしがられてっと少し驚きではあるんだが｣

『…顔見ちゃダメ』

｢なんでだよ、いい顔してんのに｣

『い、ま…どんな顔してるか、分かんないから……だァめ…ｯ』

｢だぁから、いい顔してるって。…二度と太宰なんかに手ェ出されんなよ、次したらこんなんじゃやめてやれねぇからな｣

なんで、ちょっと妬いてんのよこの人…なんでこんなに根に持ってるのよ。
貴方の中で私って、いったい…

『…ここ、何したの？キス…？ちょっとだけ…噛んだ、でしょ』

息を整えてから、鎖骨あたりを指して問う。

｢ん？…お嬢様の従順な犬が付けたマーキング｣

『従順な割には偉く御主人様に攻撃的ね』

マーキング…マーキング？
どういうあれだ、初めて聞く気がする。

｢気持ち良くなかったかよ、それならもう一回しておくか？｣

『………も、いい…なんでそんなうまいわけ』

｢知らねぇよ、こちとらファーストキスは衝動的にお嬢様に捧げちまったんでね｣

その事実を聞かされた途端に、思考が停止した。
えっ、初めて…？

この人今初めてって言った？

『…才能あるんじゃない？変態の』

｢散々な言い方だなおい。その変態の卵とデートすんだろが今から｣

『だ、だから今力入らないんだって…っ』

｢…………もしかして達した？｣

聞かれる質問と共にぷい、とそっぽを向く。
羞恥に耳まで熱くなれば、彼の声が少し嬉しそうになる。

しかし予測したような煽りや馬鹿にされるような言葉はなく、ただただ彼の心が声で伝えられるのみ。

｢可愛らしいじゃねぇの…まあ、流石にこれ以上は冗談じゃしねえし安心しろ。同意も無しにこんな風になんかしねえしな｣

『…尻尾掴んできた奴がよく言うわ』

｢腰に力入らねぇ奴が強がってんじゃねえよ。なんならおぶって連れ回してやろうかァ？｣

ダメだ、またカッコよく見えてきた…

少しの間考えてから、ｺｸﾘと小さく頷いた。