第9章 蛍石の道標
「えっと中也くん、なんでお姫様抱っこ?」
「担いで連れ回せとご所望だったので」
「随分また気に入ったんだね??」
「こいつがね」
こいつ、移動してるだけで寝やがった。
普段どれほど睡眠欲が満たされていないのかが伺える…それから、それともうひとつ。
「…熱、上がってきてると思うんです。本人はいつもの調子になってきてるんですけど、熱いんで」
「へえ、珍しい。ちゃんと休んでるじゃない」
ちゃんと、休んでる…?
「と言いますと、?」
「体調崩したり調子悪かったりするとね?自分の能力使って誤魔化しちゃう子なんだよ…今多分、一切力なんか使わずにほんとに普通に休んでる。何か、嬉しいことでもしてあげたんじゃないの?」
した…のだろうか。
正直、そこまでの事なのかどうかはよく分からないし、大層なことをしているつもりも無い。
「…こき使われてやってるだけですよ。こんな無防備に寝るとかいたずらされても何も言えねぇだろって思いますけど」
「ははは、中也くんそんなこと絶対しないじゃない。だから寝てるんじゃないの?リアちゃんは」
この人は、どこまでリアのことを知っているのだろう。
ああ、いや違う…あれはこいつの寝言だった。
「今に飛び起きて食ってかかってきますよ、セクハラだとかなんだとか言っ…」
『ん、…り、あの…』
ぎゅう。
首元に腕が回ってきて、あろうことか抱き寄せられる。
なんっだこれ、妙に小っ恥ずかしいじゃねえかおい、なんてことしてやがるこのマセガキ。
「随分また懐かれてるようじゃない、よかったね中也くん?」
「このクソガキの体調が戻ったら仕事倍にしてやりますわ…」
「とか言って、体壊すようなこと絶対させないくせに」
「……こいつ、食欲ある方なのになんでこんな軽いんです?教えてもらえませんか」
食欲ある方…どころじゃない、いくらでも食べられそうな勢いなのに。
「…摂った食事を何に置き換えてるのかだよね、僕もそこまではさすがに分からないかも」
「置き換えてる…?」
「うん、だって摂取した分が消えるなんてことは普通じゃありえないし、何かしらに変換されて使われているはずだから」
リアちゃんあんなに食べるのにねぇ。
「人間ドックにでもやった方がいいんじゃ…」
「リアちゃん体触らせるの嫌いだから、やめたげて?」
…嫌い、なのか?本当に?