第9章 蛍石の道標
「だから、休み方分かんなかったのか?」
『…や、休んだこと…無く、てあの』
「は?休んだことねえって…そこは今はいい。けどお前睡眠不足にも程があんだろその生活、いつ身体にガタが来てもおかしくねえだろ」
『寝、たら…怖いの、来るから』
ぴく、と、少女の発した怖いという言葉が耳につく。
怖い…何がだ。
寂しいとかじゃなく、怖いだと…?
「…暗いのがダメとかか?」
『そ、ういうのじゃなくてその…えと、…ッ、』
「無理に言わなくてもいいけど…つまりその、俺がついてりゃ安心して寝れんの?お前」
『ん…、?…え、あ…えっ』
えっ、じゃねえだろ。
「まあ確かに、俺は強いしな?幹部だしお前の上司だし」
『背そんなに変わんないけ「しばくぞ手前」…ぱ、ぱわはら』
覇気がないどころか、何故か俺相手にまで遠慮してやがる。
いつもの元気などどこにも見当たらない。
何怯えてんだよ馬鹿。
「…休憩時間と、仕事の合間。少しずつでいい、仮眠挟め」
『、?そんなことできたら困ってな…』
困ってんじゃねえか。
「俺がついてんだろうが、寝ていいから。襲ったりしねぇよ」
『……襲、わな…?』
…やけに消え入りそうな声。
こいつまさか…いや、さすがに考えすぎか?
けど、可能性として無くはない。
さすがにここまでデリケートな話になると直接聞くなどまだ出来ないが。
「当たり前だろ、合意も無しに女に手ぇ出すかっての」
『変な人…中原さん、なら………リアの両手でも片手で押さえ込んで、なんだって____』
ああ、知ってる。
その目は、その感触を知ってる者の目だ。
諦めている者の目だ。
…助けて欲しかったという、声だ。
『……寝言ですから、これ』
「ああ、知ってる。阿呆な部下のいつもの寝言な」
『あ、の…苦しいです』
「いいから。嫌じゃねえんなら甘やかされてろ」
気づいた時には腕の中におさめていて、言葉にする代わりに触れ合って、撫でて。
『こういうことするから、セクハラで……中原さん、リアのこと護ってくれるってほん、と?…ほんとに、ほんと??』
「…本当」
『…部下、だから?』
「先に聞かせろ、お前にとって俺は何?」
『………リアの、こと…見ててほしい人』
「お望みとあらば、いくらでも」
子供らしいとこ、ちゃんとある。
全然子供だよ、お前…