第9章 蛍石の道標
たまに唸るように俺の腕に擦り寄ったりしつつも、それを離さずに眠りこけてくれてしまうリア。
こうして見てると、なんという犬や猫のような類の生き物にさえ見えてくる。
いや、れっきとした人間だが。
右手が完全に塞がっているため左手で作業をする…のだけれど、そんな中、コーヒーが無くなって口がもの寂しくなったことに気がつく。
無くてもいいといえばいいのだが、無ければ無いで、落ち着けない。
こんなにくっつかれてちゃ離しにくいが、まあコーヒーをいれる間だけだ。
なんて、腕を彼女から離して。
少し離れたところにあるコーヒーメーカーを求めてカップを持っていったところで、そいつが酷く怯えた声をあげるのが聞こえた。
『っ、…あ、え…中也く…ッッ、』
「!?起こしちまったか!!?」
『っへ、…あ…い、た…な、何でもない……ごめんなさい』
見計らったようなタイミング。
いや、あんまりにもピッタリ過ぎないか。
さてはずっと起きてた…なんてことは明らかになかったはずだ、あんなにすやすや寝てやがったのに。
『……り、あ…寝てた、?』
「あ?…あ、ああ、まだ二時間程だが」
『リア、が寝て…なんで、リアが寝れて…??』
独り言ちながら首を傾げるそいつに、違和感。
どうして寝れてるって、そんな当然のこと。
「…生理現象だろ、んなもん」
『……ほんとに寝てた、?』
「そこで俺が嘘ついてどうなるんだよ」
『いや…別、に。…??』
両手を頬に当てて、惚ける。
なんだその仕草可愛いかコラ…じゃなくて。
「何、もしかしてお前いつも寝不足なのかよ?」
『…十五分くらいは毎日寝て「十五分!?おまっ、毎日十五分なのか!!?」へ…っあ、う、嘘…!!嘘吐きました、十五分じゃなくてえと、あの…六時間!六時間寝てます…』
明らか嘘だろそっちの方が。
お前今マジで素の反応だったじゃねえか。
「……今日聞いたこと、体調戻ったら聞かなかったことにしてやってもいい。だからもう一度聞く、お前普段ちゃんと寝てる?」
『………熱のせい、で頭おかしくなってるってことで、いいんです…?』
「いいよ、今日のところはな…他の誰にも言いふらさねえし。寝れないっつってたの……毎日のこと?」
少し、たじたじになりつつも。
顔を俯かせ、それでもこの子は首を縦に振ってくれたのだ。
…とんだ“体質”じゃねえか