第9章 蛍石の道標
くいくいと引っ張られて仕方がなかったので、仕方なく…本当に渋々、ソファーの傍に移動してローテーブルで書類作業。
もうこいつ毎日風邪ひいてりゃ素直なんじゃねえか?
決して下心などではない、決して。
「…おい、何パソコン覗いてやがる。病人は寝とけ」
『リアもパソコンで遊びたいです』
「寝ろっつってるよなクソガキ」
『クソガキじゃないもん…、』
いつもの勢いでスルーされるかと思いきや、不服なご様子。
「いい子に寝てろ」
『リアいい子だからお手伝いする』
「それで風邪長引いたらそれこそずっと仕事出来ねぇぞ」
『……ほっといても、どうせ三日は治んないもん』
ピタリと手が止まる。
そういや、治りが遅いとか言ってたか。
「お前、体調崩すと治りにくいんだって?体質?」
ド直球に聞いて、ハッとした。
結構デリケートなことを聞いてしまっまたのではないかと。
しばらく黙りこくった少女の方を向けば毛布で頭まで隠れてしまっていて、表情が分からない。
『……寝れな、くて』
「…そりゃ治んねぇわ。仕事とかが気になって寝られねぇの?」
それなら…そんなに気になるなら、三日猶予やるからちゃんと休んで治してやればいい。
今日の提出分は持ってきてくれてしまったのだから。
順当な日数を提示し、その間他の誰にも触らせないことを伝えれば、どこか警戒心というか…何かのしがらみから解かれたような雰囲気が伝わってくる。
「つか、暑苦しいだろ。顔出せ」
簡単に剥がせてしまった毛布の下で、目を潤ませているそいつ。
ほんと、泣き虫だよなこいつ…心配事くらい、俺に言ってしまえばいいものを。
『り…あ、…必よ、…?』
「…お前がいなくて俺が普通にしてられると思うか?早くうるせぇくらいにはしゃぎ倒せるように復帰しろ、悪ガキ」
『悪ガキじゃな「…リアちゃん?」ッ!!?』
肩を跳ねさせて、身を縮めるそいつ。
なんだよ、嬉しそうにしやがって。
「お前が俺の事大好きなのは分かったから、寝れる内に寝とけ…どっこも行かねえから安心しな」
頬を何度か撫でてから、そいつが寝付くまで頭を…それから、毛布を隔てて腹部を。
触れてる内に安心してきたそうで、うとうとと船をこき始める。
『……、…だ、っこ』
「…しょうがねぇな、特別サービスだぞ?ったく」
いつも、こうしてても怒らねぇのに。