第9章 蛍石の道標
とりあえず食欲があまり無いとの事だったので、執務室に連れ、胃にゼリーを入れさせてから薬。
が、ここで彼女の口から発せられた言葉に、不覚にも少しどきりとする。
『…に、苦くない、?』
「?錠剤だぞ、解熱剤」
『あ、の…粒の、お薬飲んだこと…なく、て』
錠剤が初めてとかどういうあれだ。
今まで粉かシロップだったのか?そういうことか?
「…水と一緒に、口に入れたらすぐに飲み込む。出来そう?」
『でき、…で、でき……』
うわぁ、おもしれぇくらいにびびってやがる。
普段からこんくらい可愛げがありゃなぁ…なんて考えに思わず笑いそうになりつつも、気を取り直して。
「じゃあまあ、オブラートゼリーでも貰ってくるわ。横んなって楽にしてな」
場所が場所なだけにソファーで申し訳ないがな。
ぽんぽん、と頭に触れて、首領に置いていないか聞きに行くことに。
最悪なければどこかの薬局に行きゃいい。
誰かをこんな風に看病する経験など無かったもので、どこか甘えられているのにも…甘やかすのにも、心が躍っている気がする。
が、踵を返したところで違和感。
ク、と突っ張る感覚に、振り返れば彼女の手が俺の外套を掴んでいた。
顔を背けて、そっぽを向いたまま。
妙に離し難くて、あちらに向き直ってしゃがむ。
「……嫌?」
『…はい、』
素直じゃねぇか。
「オブラート貰いに行くだけだけど。…寂しいか?」
しばらくの沈黙。
それから、小さく首を縦に振る様子に、どうしようもなく可愛がりたくなる。
「そうかよ…じゃあ頑張って水で飲め。飲めたら後でアイスでも食べさせてやるよ」
少ししてから、むくりと起き上がる彼女が、水の入ったペットボトルを手に取る。
なので薬をとりあえず一粒渡してやると、ちらちらとこちらを見ながら戸惑っているようで。
本当に、飲み方を知らないのだろうか。
見たことも無いのだろうか。
オーラル用のタブレットを手に、見本を見せるべく、本来の用途とは違うが水を使って胃に流し込む。
するとそれを真似して、錠剤チャレンジ。
が、飲み込んでも飲み込んでも水を追加してばかりで、そのうちとんでもなくしぶそうな顔をする。
それからまた、水で無理やり流し込んだご様子。
「っぷ、…下手くそかお前っ、苦かったろ」
『……薬嫌い』
「はは、飲んだだけ偉いじゃねえか。頑張ったな」