第9章 蛍石の道標
「ほれ、手」
『…い、いいの?』
「寧ろ問題あんの?」
『や、そういう訳じゃないですけど』
恐る恐る、出される手に自分のそれを重ねる。
読まない…彼の思考を、記憶を、読まないように。
『……な、何度も言うけど私…あの、』
「だぁから、読まれてもいいって。俺お前にやましいことねぇし」
そこまで言いきられてしまうものだから寧ろ心配になってしまうのだが。
指を絡めて引いていく彼に連れられて、車に乗せてもらって。
あ、なんかこれもデートみたい。
『読まれても、っていうかその…抵抗、あるでしょ普通』
「今になっちゃもう何もねぇよ、俺が変態なことくらいもうリアにバレてんだし」
『そういうッ!!?』
そっち方面だなんて想定外だ。
いや、そうでなく。
「俺が隠してぇようなことなんか…それこそ、お前は全部分かってて、それでも俺を求めてくれてんだろ?だから、大丈夫」
運転席に座ってよしよしと撫でられるのに、また照れる。
変なの、なんかいきなり余裕そうにしちゃって。
車をとめて、買い物して…寄り道して甘いもの食べて。
買う量自体はそんなに多くない上、買いたいものは決まっていたのですぐに目的は達成する。
「あーはいはい、荷物持たなくていいんだよ姫さんは」
が、妙な違和感。
『…あの、じゃあ軽いのくらい』
「却下」
『一個だけでも持「こら、そっち側歩いとけお前は」…頭打った?中也さん』
「打つわけねぇだろ、リアのこと見てんのに」
そういうことをサラッと言うようになりましたね貴方。
えっ、いや、さっきからおかしい色々と。
過保護だ過保護だとは思っていたけれど、こういう扱われ方じゃなかったはずで。
『………ッ!?そ、そ…う、?』
「?…そのクレープ一口ちょうだい」
『!よ、喜んで!!』
はいどうぞ、と、少し目線の高い彼に向け、スプーンにアイスとクリーム、それからフルーツを乗せて彼に向けて…差し出す、のに。
その横を簡単に通ってきて、ぱくりとクレープ本体にかぶりついてしまうのだ。
う、わ…そこ、私が食べかけの…
「ん、ごっそうさん」
『…ふ、ぁ…っ』
「リア…?」
『あ、え…や、あの……き、れいなとこ食べても、良かっ…ッ』
ペロ、と舌を出して、意地悪に彼はまた言ったのだ。
「ん?…外だけど、直接キスして欲しかった?」