第9章 蛍石の道標
「ふぅん、結構食欲旺盛じゃねえの」
『それが何か』
「いや、まともに食べてるところ初めて見たからな。少し面食らった」
『幹部様の奢りだそうなんで、いっぱい食べて破綻させてやろうかなって』
「ははっ、そんだけ元気なら安心だわ。好きなだけ食えよ、食べられるなら」
おかしい。
さきほどからこの幹部様の私への対応が。
いつもいつも、私の態度があれなせいもあって怒ってばっかりなのに、どうして急にこんなに面倒見が…ああ、いや、それは元から良かったっけ。
『…こんな上等な食事だとか聞いてないんですけど』
「へぇ、やっぱり分かるんだお前?」
『やっぱりって…?』
「なんとなく佇まいがな…育ちが良さそうな雰囲気してるから」
どうしてだ。
そんなものを意識していた覚えなどないというのに。
「姿勢もいいし、所作も丁寧で綺麗なもんだし…普段の態度はまあおいておくとして、マナーもよく知ってるし」
『だ、だからってこんないいとこ連れてきていただく義理は…ない、かと』
「いいだろ、たまにくらい。俺の財布破産させるつもりなら毎日でもせがめよ?」
言質を取って言い返してくる始末。
こんなに良くされると、調子狂う。
『な、かはらさんてその…リアの、噂とか聞かないの、?』
「噂?」
既に流れているのは首領のお気に入り、依怙贔屓…それに身体で取り入るハニートラッパー。
中也くん本人にさえ、そうやって取り入ったなどと曰われるほど。
だからという訳では無いけれど、直接接触する時間だって取らないよう気をつけているし…Aに見つかればそれどころじゃないし。
『あ…いや、知らないならその…』
「……いいよ、何でも言ってみ。俺はお前の言葉を信用する」
どうして、また私に優しくするのだろう。
あんなに酷い態度ばかりの私に。
『…リアに色仕掛けされて首領と中原さんがメロメロなんですって、笑える』
「面白ぇ冗談を言うやつがいたもんだ、全くだな…俺はどっちかって言うと___」
ふと、触れられる頬。
それと、ク、と軽く引かれる首元のリボン。
ゾク、と、嫌じゃないのに、怖くもなく体に何かが迸った気がする。
「…メロメロにする方がそそられんだけど」
『…、?…???』
心臓、止まったかと思った。
なんでこんな、恥ずかしいんだろ。
なんでこんな…ドキドキ、してるんだろう。