第9章 蛍石の道標
連れてこられた猫のように大人しくなる少女を連れて中に入り、個室に連れられ、そこでディナー。
まだ十五やそこらの子供相手ではあるが、オーラが普通のクソガキ様ではなさそうなのでまあ味くらいは分かるだろ、などと勝手に店に連れ込んだ。
が、俺や周りのことなど気にする余裕もなさそうな目の前の子供は何故だか先程からパニクってくださっているらしい。
『り、リアって…呼ん、…!』
「おい」
『ち、ちちち中也くんがリアって…っ♡』
聞こえてらっしゃらないどころか心の声がダダ漏れじゃねぇか、マジでどうしたこいつ。
つか俺の事中也くんて友達かよ、別に呼びやすいならそれでもいいけど。
「リア?」
『ッひゃぃ!!、?』
「おー…落ち着け、飯食いに来ただけだ」
頬まで真っ赤に染め上げて…初かこいつ。
ちらちらこっち見ながら俺がそっち向いたら顔背けるし。
初かこいつ、乙女かよ。
「お前それでよく男ばっかのポートマフィアになんか入ろうと思ったな…」
『そ、そんなの中原さんがいたからに決まっ…』
「…」
こちらに向けてバッと顔を上げて、言ってしまったというような顔をされる。
面白いくらいに可愛らしいそいつの様子に思わず吹き出しそうになるのだが、俺は紳士だからな。
「……悪いな、よく聞こえなかった。ほら、水でも飲んで落ち着け」
『!!、…ん』
わっかりやすいなこいつ。
「そういや、お前今日執務室来た?やけに美味いコーヒーと菓子があったんだけど」
『そそそそんなのわざわざ私がパワハラ上司になんか差し入れするわけないじゃないですか…♡』
「…そうか、なら狐か狸の仕業かねぇ。にしても美味かったし、礼でも言えればいいんだが」
『キュゥ、…っ♡♡』
なんでこんな懐いてんだこいつ、なんでこんなデレてんだ。
意味がわかんねえくらいに態度が違ぇぞマジでどうした。
つか俺別に差し入れされたなんて一言も言ってねぇのに暴露してるとか典型かよ。
『こ、コーヒー…好きなんですね??』
「今日飲んだのは格別に美味かったな」
『ふ、ふぅん…』
そんなもじもじしてたら隠せるもんも隠せてねぇぞ、おい。
やっぱりこいつ、俺の事…
「お前がしてくれたってんならセキュリティ的に納得だったんだけどやっぱり違ったか」
『……クソ幹部』
「なんっでだよ!!?」
世の中そう甘くはなかった