第9章 蛍石の道標
急いで車を飛ばして、予定していた場所へたどり着く。
首領曰く、戦闘においては心配していないとの事なのだが…あんな細い腕の女一人で行くような場所じゃない。
殴り込んだような形跡の扉。
廃倉庫の中、奥へ奥へと進んでいくにつれて、チンピラの人数が減っていく。
が、最後の区画に入ろうというところで、ようやく人の声が聞こえたのだ。
「強いな嬢ちゃん、痺れ薬打ち込まれてそれか」
『薬とか、慣れ…っ』
やけに、息遣いがおかしいような。
「でも単純な力比べじゃ流石に男三人には勝てなさそうだなぁ」
「歳の割に発育良さそうだし先に遊んでやらね?」
『っぁ…ッま、!!』
あいつの服に手をかけられたところで、頭が沸騰しそうな程に、何かが湧き上がって…血が上って。
そいつに触れてる奴の衿元を掴んで投げ、壁にめり込ませる。
「……は?」
『、…?な、…へ、?』
「誰に許可取ってそいつに触ってる」
「!?誰だてめ…ッぶ、!!?!?」
二匹目。
そして間髪入れずに三匹目。
拍子抜けしたように座り込んだままの少女は、目をまん丸にさせてこちらを見る。
そちらに振り向いて…腰を下ろして、文句の一言でも言ってやろうと手を伸ばすと、どうしてか目をつぶって怯えてしまうそいつ。
そのせいで、言えなかった。
必死に考えてきた、彼女をおちょくり返すような台詞たちが。
「……お待たせ」
『ぇ…、』
「触っていい?頭撫でるだけだ」
『…な、んでここ、』
「はぁ?部下が頑張ってくれてんのに無視できると思ってんのかよ」
そんなわけない、勝手な独断行動を…寧ろ、責めるべきなのに。
『い、や……べつ、に一人で全然…平、気…』
「悪いな、手柄横取りして。お詫びに飯でも奢ってやるよ」
その実美味いコーヒーと菓子の礼だが。
『い、いらな「独断行動働きやがったクソ新入りに拒否権とかねぇってことはわかってるな?」……い、いや…ち…中原、さ…』
手が、まだ震えてやがる。
怖がってばかりじゃねえか、お前。
「寒いんならあっためてやれるけど?」
手を差し出しても、困惑したように動かなくなる。
どんだけ慣れてねぇんだ人間に…
彼女の手を取って、両手で包んで。
「大手柄だ、褒めてやるよ」
『へッ、褒め…!?』
…もしかしてこいつ、褒められるの、好きなのか。
「……おう。勿論」