第9章 蛍石の道標
俺から離れればその後はものすごい速さで駆けて出ていったあの少女…に、恐らくだが口付けられていたであろう項。
それだけでは無い、痛みがあったのでミラーで確認してみれば、やはり小さな小さな赤い華。
…いや待て!!あいつ、そういう!!?!?
いやいや待て待て待て!!!!
テーブルに置かれた、どうにも見覚えのあるチョコの包みの添えられたカップとソーサー。
待てよ、なんであいつが俺の好みのチョコのブランドを知っている。
なんであいつが…俺の好きなコーヒーの豆を知っている。
なんで、あいつが俺に…抱きついて、?
ふとチラついたのは、同じ色の髪をした…あいつと瓜二つの、人魚。
いやそんなはずは無い、そもそも人魚と人間とじゃ種族さえもが別物だ。
それにそもそも、あの人魚はもっと、いつも笑って、びっくりするくらいに優しい奴で。
“中也…くん、”
ガチャ、と、頭の中で反復した声があまりにも重なって聞こえて、カップを置く。
簡単に飲み干せてしまう程に、上手い淹れ方。
…あいつじゃ、無い。
そこを考えるな、海音に…いや、白縹にあまりにも失礼だ。
って、いや待て、書類貰うために戻ってきたのに何してんだ俺。
見回してみるも、書類は見当たらない。
すると、携帯がなり始めるので相手を確認すれば首領。
「…!な、中原です」
「ああ、中也くん?仕事で疲れてたの君?」
「はぁ…?何故、自分が??」
「リアちゃん、中也くん疲れて眠ってるからそっとしておいてって言ってこっちに来るなり中也くんの仕事取ってっちゃったけど」
「何してんですかあいつ!!?仕事渡したんですか!?」
「えっ、うん?」
なんで渡したんだこの人もこの人で。
疲れてねぇよ元気だよ、なんで俺の仕事持ってくなんて発想になるんだあいつも。
「オーバーワークでしょう!?あいつ自分の仕事だってしてるのに、何をまだ…!!」
「中也くんがちゃんと休めてないんじゃないかって、あんな可愛い顔してむくれられちゃあねぇ…?」
可愛い、顔。
いや、あいつは元々整った顔してるし…そういや首領の前じゃやけに可愛らしい顔を見せ…っとお、何にもねぇ、そう、何でもないのだ。
「…何の仕事です?俺も行きます」
「明日決行しようとしてた殲滅任務♡」
「相手チンピラ五十人規模ですよ!?一般人とはいえ大人ばっかの!!」