第9章 蛍石の道標
彼の部屋で、彼の布団に、枕に包まれて、彼を感じて。
私とシークレットサービスの契約を結ばずとも、私を考えて帰宅した日の記憶だって、感じる。
やれサボり魔だのふざけてるだの言われていても、憎からず思って、可愛がろうとしてくれていたのだって。
『…、♡』
「リアちゃん、とりあえずココアでも飲…?」
寝室に戻ってきた彼の方を見るのが気恥ずかしくて、掛け布団を頭まで被って丸まった。
「…そうされっと引っペがしたくなるんだが」
『だ、め』
「昔の俺に構ってばっかりか?」
『……中也さんのにおい、リアにいっぱいつけとくの』
お前なぁ、と素の声でつっこまれる。
「もう全然使ってねぇのに?この家」
『ん』
「そんなに好きだったとは聞いてねえんですけど」
『リア天才だから』
「さては俺に何かしたことあるなその反応は??」
どうして今の会話でバレたのだろうか。
『…夜這いとか?』
「いつしてたんだマジで」
『仮眠中』
「リアちゃん夜這いの意味分かってるか」
失礼ね、知ってるわよそのくらい。
ただまあ、気持ちも伴ってないのにそういうことをするなんて発想は一切無かったし、だからこそそこまで踏み込んだようなことは…
「少なくとも、寝てる相手の身体労わって上着かけたり、起きる時間を見計らって勝手にコーヒー用意してたり差し入れで毎度毎度チョコレート置いてたりするのは夜這いじゃねぇからな」
いやほんと、どうしてバレているのでしょうか。
『…何それ、まだ寝ぼけてんですか』
「寝ぼけてるわけあるか、お前がうちに入ってからんな事ばっか起きてんだよ流石に気付いてたわ」
『脳筋が何言ってるのかリアちょっとよく分かんな「小生意気な部下はその面見せやがれ」!?ちょっ、馬鹿力やめ…ッ』
尻尾を十本、そして狐耳。
彼の白シャツを身にまとっただけの体をちぢこめて、尻尾の隙間から彼の様子を伺う。
「…ふっ、やらしー子は好きだぜ?こんなとこまで華咲かせて、」
なぞられる脚に、体がビクつく。
「俺につけろってお強請りばっかで聞かねぇし…これでもかってくらい恥ずかしいとこにまで強請っちまってるくせしてよォ」
『っひ、ぅ…ッぁ…♡』
真尾を逆撫でして、彼は私にそれを突き付けてくる。
「俺の項に毎度毎度キスマークなんか付けてくれやがって…可愛い部下だよなぁ?ええ?」