第9章 蛍石の道標
「…っ、り、あ…?……しんどいんじゃ、なかったっけ」
『ん、…ン…ッ』
ありがとうと、よく出来ましたと。
それらが伝えられるように撫でられるのが堪らなくて、もっともっとと、彼への奉仕を続けて、ベッドの上で座ってもらったそこに自分から咥えに行けば、離すようなことはされずにそのまままた撫でてくれている。
しんどいとか、忘れた。
あんまり楽なわけでもないけれど、こんな風にしているのに嫌悪感が無いのが、すごく素敵だなんて思いさえしてしまう。
私、これ好きだったんだ。
「…俺が全部やってあげんのに頑張ってくれるんだもんなぁ、お前」
『…、ッン、…っ…っっは、…ッ♡』
狐耳にキスされるのに思わず感じて、奥まで咥えていたそれをヌル、と口から出して少しだけ噎せ返る。
すると背中を摩ってくれるのだけれど、どうしてかそのまま身体を起こされて、ちう、と唇にキスされて。
『ん、んん…、む…ぅ、♡』
「………かわい、」
『…な、んか……泣きそ、ッ』
「!…いいよ、泣いて」
力が入らないのを彼に頼りきって抱き寄せてもらって、なんにも出来ないのにそれさえ許してもらってしまって。
なんて無能なのだろうと思うのに、不思議とこの感覚が愛おしくて。
『ごめん、ね…っ…り、あ…薄情者、でッ…!』
「あのなぁリアちゃん?自己評価がまぁた低すぎるんですけどそれ…俺としちゃ太鼓判押してやりたいくらいに嬉しいことばっかりだったってのに」
『…、?な、ん…??』
「お前、一度も記憶のない俺のことを責めもしなかったんだぜ?そのくせしんどくなるの分かってて一緒にいてくれるとか、それだけでどんだけ俺が救われてたか分かんねえだろ」
撫で方ひとつとってしても、違うのだ。
この人は…すぐにこうやって、私の本性に合わせて可愛がり方を変えてくる。
本物の子狐を撫でるように、愛おしそうに……父性さえ持ち合わせたような手つきで、撫でてくる。
『でも、…でも、その、』
「あの発言は“俺”が謝るよ、すまなかった。もう置いてけぼりにしないから」
『ぁ、………う、ん』
好きが、溢れて止まらない。
あんなに分からなかったはずなのに。
あんなに、嫌悪して恐れて、逃げて、目を背けてきたはずなのに。
大好きで大好きで堪らないというこの気持ちに、酷く飢えていたらしい。
「もっかい、愛させて。お前のこと」