第9章 蛍石の道標
「相変わらず下手くそだね?そんなだからいつまで経っても気ぃ遣わせてるんじゃないの」
『っンン、ん…ッ!!!』
「何思ってんのかだいたい想像つくけど、そんなに嫌ならとっとと記憶修復してやればいいじゃない。ねえ?」
緩む彼の手に、必死に酸素を取り込もうと息を吸う。
首締められながらキスされるの、久しぶり。
これ、頭どんどんおかしくなってくの。
「で?今日これからどうするって?」
『ぁ…、ッゲホ、!…っ、…ちゅ、うやのとこ、に帰「君の言う中也なんて、もう居ないよ」!!!っぅ、あ、ぁ…』
「大体考えてもみなって。記憶がある頃に付き合ってたってだけの見ず知らずのこんな子供に束縛されてる男の身にもなりなよ?鬱陶しいに決まってるじゃん」
『そ、なの分かって…』
「分かってるのに親切心につけ込んで離してやらないんだね?どっちかにしてやりなよせめて」
自分を選んだら、そんな顔絶対にさせないのに。
伝わってくる声は酷く私を想う言葉ばかりで、頭がおかしくなりそうになる。
この人との行為は、いつもそうだ。
怖いことばっかりするのに、あんまりにも優しくて、気持ちよくて。
私が死にたがって、消えたがってるからって、無理してこんな風に私を苦しめようとする。
私が少しでも苦しむように。
少しでも、罰せられてる気になって楽になれるように。
だから楽なのだ、この人といるのは。
だから、信頼しているのだ、この人のことは。
なのにこの世界には、それとは違う形で私を愛してくれてしまうという人間が存在してしまったらしく、いつもそれで私は怖い目に遭ってばかりなの。
「ッッッ、てめぇ、今すぐそこ退きやがれッ!!!!」
「っっっ、!!!ッ…おっそ……ったいなぁ、相変わらず」
劈くような声に、私の胸元に太宰さんの口から血が滴ってくる。
解放感に咳き込むも、彼と同じ見た目の…彼、に見下されて。
ああ、そろそろ潮時かなんて、諦める口実を並べて、作って、満足して。
『……、っほ、…き、た……んだ、…………遅かっ、____』
なのに、私に遅い来る強烈なまでの彼の香りが、体温が、抱擁が、吐息が、振動が、また私を恐怖のどん底へと引きずり下ろす。
「っ、めん…ごめん…………っ、ごめん…!!」
『……なん、で謝っ…ん、ぅ……!、?』
だから、大っ嫌いなの。
愛されるだけのキスなんて。