第9章 蛍石の道標
ふと、篠田さんに撫でられ、村上さんにお菓子まで振る舞われ、なんやかんやで甘やかしてもらううちにガチャ、と鍵が解除される音が響く。
それにぴり、と玄関の方に意識を割くのだけれど、それが空けられた途端に入ってきたのは、敵…というわけではなさそうで。
「お邪魔するね〜、ここにリアちゃん来てないかな?」
『…だざ…い、さん?』
私の、拍子抜けした声が響く。
「だ、誰だよお前!!?」
「リアちゃんのストーカーだけど?」
「余計に怪しいんですけどその言い方…本当?」
『い、や…ストーカーっていうか…』
ただの恩人が、私を迎えにやってきた。
停戦協定が結ばれたと言っても、マフィアの構成員達の巣に。
「ほら、妖館に帰りづらいなら家に来たらいいから」
「妖館て…も、もしかしてメゾン・ド・章樫!!?セレブマンションの!!!」
「…ねえリアちゃん、この子達は?」
『?えっと…部下A、B』
「「扱い!!!」」
反応が渡狸そっくりだ。
「へえ、じゃあそんな部下二人の部屋で…なんで服、着てないの?」
『やる事ヤったからよ、見たら分かるでしょ?』
え、と二人揃って目を見開くのだが、私がここまで言うのにだって理由がある。
『だから、とっとと帰って。私全然なんともないし、ここにいたらセキュリティだってあるし…“外で待機してる人”なんか、待ってないから』
「ふうん?嘘つくんだ」
『ついてない』
「ついてないんなら今ここで抱かれてみなよ。見ててあげるから」
『!?な、に…』
「え、出来ないの?…それとも、まだ私に手取り足取り教えて欲しい?」
ばさりと取り上げられる上着に、掴まれる両手首。
あ、だめだ、だって私この人にだけは逆らえない。
「ちょ、あんたさっきから人の家で何してんだよ!?」
「君達だってこの子のこと抱いたんなら同罪でしょ?恋人がいるって分かってたんならさぁ」
『!!!、ご、合意したのよ!!私が!!』
「そんな訳ないでしょ、君が合意なんか出来るわけない。あいつを覗いてこんな好意を許せる相手が私以外にいるって、どういうことか聞かせてくれないかな?“海音”」
ヒュッ、と変な音が気道を掠めた。
『な、…え、…ぁ、』
「ほら、得意でしょ。脚開きな」
『だざいさ「違うでしょ」ぁ、お、治さん待って、待っ…』
真っ先に感じたのはキスの感触。