第9章 蛍石の道標
「で?リアちゃんでいい?」
「お前完全にそいつについてんな?」
「中也さんの選んだ子なんて興味あるし絶対いい子でしょ」
私に敵意むき出しだったその人は村上さん、それから、私に上着を貸してくれたこの人は篠田さんというらしい。
顔は知っていたけれど、中級構成員であり、かつ防衛配置が主体のこの人達とは接点が薄く、名前はさすがに覚えていなかった。
入れてきてくれたのはココアにホットミルクに梅昆布茶。
三種類、違う味。
『…?い、色々好きなんですね』
「てめえの好みを知らねえからいれてきたんだろうが!!?」
『な、なんで私の…??』
「一応客人だってこと分かってねえのか!?ああ!?」
『い、や…だって私、脅されて連れ込まれただけだからその…』
「こいつ、態度だけいっちょ前にでかいやつなんだよね。許してやって」
今はもてなしてるだけだから、好きなの選んだらいいよ。
なんて通訳されるのに村上さんの方を見てると、変にまたキレ顔を披露してくれているのだが。
篠田さん…この人の言葉は、どうやら信用してもいいものらしい。
『……飲み物、とかいらない』
「折角家主が入れてきたのに飲まねえとはどういった了見だよおい」
「全部苦手だったとか?」
『…嫌い、でしょう?』
え。
固まられるのに、顔を伏せる。
私に何かを与える意味が分からなかったから。
「いや、そこまで言ってねえだろ…言ってねえよ!!?」
「うっわ、落ち込ませてる」
「嫌ってねえから!!嫌いじゃねえぞ!!?な!!?」
『いい。中也さん以外の人に好かれたって意味無いし』
「こいつやっぱり寺にでも出した方がいいんじゃねえか?」
いつぞやの彼にそっくりで、余計に怖くなる。
「…その、中也さんと一緒にいないの珍しくない?どうしたのさ、そんなに目泣き腫らしといて何にもないはないでしょ」
『……浮気したの』
「浮気!?」
『リアがね』
「てめえか!!自業自得じゃねえかそんなの!!」
そう、自業自得。
全て私が悪いのであって、あの人に非などひとつもない。
あっていいわけがない。
「浮気したって、一体誰に?あんないい人中々いないと思うってくらいいい人だと思うんだけど、あの人」
『中也さんに』
「……んん?待って待って?浮気したんだよね?」
『中也さん、今リアのこと覚えてないから』