第8章 タイムリミットとクローバー
聴こえたのは、以前探偵社の隠れ先を襲撃した際にカメラのスピーカーから聞こえてきた男の声。
若い方の。
「…依頼がある、捜索と、保護の」
「いいけど、保護までするんなら君の大嫌いな太宰の力を借りることは避けられないと思うけれど?それも、男として」
「リアが拒まないならそれでいい」
言い切った俺に、ぴくりとまたこちらに目を向ける他の奴ら。
言いたいことならわかる。
さすがに、先程あれだけ本人をして言わせてしまったことだから。
「へえ、いいんだ?……じゃあ、そんな男気溢れるようになった君に特別サービスだ。今いるのはリアちゃんの断界膜の中だろう?外にいる子達に布か何かを投げ入れてもらって、中の人間で協力してそれを体にくくりつけてもらえ」
「は、…布、!?何をいきなり…」
「外の人間に引きずり出してもらえば、君はその膜の外に出られるよ」
「!!!」
なるほど、その手があった。
「その膜は、何も物質を跳ね返す力を持っているものじゃあないからね?丁度膜のところで布は床に落ちるだろうけど、幕の中に椅子かなにか無い?」
「椅子…は、ねぇな。大人二人に変態四人だ」
「「「「おい」」」」
「膜に生身で触れずに布を引きずり込めたらいいんだけど?身につけてるものとかでも、何かないかな?棒かなにかでも…」
「それならば私の鞭を使うが良い」
変態だ、変態がいる。
いや、しかし背に腹はかえられん。
「おお、面白い子がいるんだねぇ?じゃあそれでいいじゃない。あとは頑張りなよ、素敵帽子君…居場所ならこっちで立原君に追ってもらうから」
言われるがままに投げかけられる、テーブルクロス。
綺麗に膜の中で折り重なるように床まで落ちたそれを、蜻蛉の私物の鞭の柄で何とか半分程引っ張り出す。
それからそれを掴んで…
「ああ、それ掴んで引っ張ってもらっても手から力が抜けて意味無いからやめときなよ?」
「っ、そうだった」
固く体に巻いて括りつけてもらい、そのまま戻ってきた渡狸を含めた三人に外から引っ張り出して貰えば。
「………………ッッッ、!!?!?死ぬかと思ったわ!!!!!?!?」
膜を通過するのとともに体中の至る機能が停止したらしく、一瞬意識が飛んでいた。
むせ返って正気に戻る。
「ふふ、十秒も止まってたら死んでたね」
「そういうことは早く言え!!?」