第8章 タイムリミットとクローバー
「それは構いませんけど、どの辺にいるのか分かってんすか…?」
「…俺の名前で探偵社に依頼してくれ、あそこに行きゃ多分分かる」
「は、!?探偵社って、武装探偵社!!?」
「逢魔が時過ぎると本当に危ないんだ、頼む…!!!」
誰かに何か断りを入れるような声が聞こえ、それから走る足音が響いてくる。
「や、それはいいんですけど…何したんです?いったい」
何の理由もなしに俺の元から離れるような子ではないと、思っているのだろう。
分かってるんだよ、俺よりもよっぽど……よっぽど、あいつのこと。
「……情けねえことに、心当たりが多すぎてな」
「また余計な気回しして構ってやらなかったんじゃないでしょうね?」
どうして、分かる。
「あんた、だいたいいつもそうやってあいつのことばっか考えすぎて、結果的に寂しがらせて空回りしてんですから」
ああ、前にも同じ事を…していたのか、俺は。
「返す……言葉も、ねえよ」
「………正直俺からしたら、なんであんな健気で純粋な奴が中也さんにそこまで一途でいられるのか分からないところもあるんですけど」
「俺が一番思ってる、それは」
「!?ち、中也さん…あんたまさか、あいつにそんな風にして言ったんじゃ…」
は…?
思考がピタリと停止した。
「一番言っちゃダメでしょそんなこと!?まだあんたに忘れられてから一日も経ってねえってのに!!!」
「い、や…それとこれと何が関係して…」
「あいつにとっても中也さんにとっても、お互いが一番で…だからリアだって頑張ってんのに、中也さんが弱気になってあいつのこと否定しちまったらどうしてやったらいいんですか!!?」
驚くほどにすんなりと、頭の中に入ってくる。
ああ、否定…俺、あいつに壁作ったのか。
そうだ、考えてみればずっとそんな風にして接してきた気がする。
夏目から話を聞いた後にだって、聞いたからこそ、やっぱりこいつらとの方が付き合いだって長いんだって。
そこに嫉妬して固執して、当の本人のことなんて。
あの子が望んでくれていたそれを、俺が全て無駄にして、踏みにじった。
「っ、とりあえず着きました、近くてよかった……電話繋いどいてくださいよ、依頼くらい自分でして下さい」
あんたの女のことなんですから。
息を切らしたそいつがドアを開く。
「どうもー、武装探偵社です…中原中也君?」