第8章 タイムリミットとクローバー
そもそも大学に編入するタイミングで籍などを入れてしまったり、在学中に苗字が変わるというような境遇に立たせたくなくて躊躇っていたこと。
しかしまあ、つまりは先にしてしまえばこちらのものでしかなくて、初めからこいつの苗字が中原であれば問題など起こらないようなものなのだ。
堂々と旦那だと言える、口実さえ俺が欲しかっただけなのかもしれないが。
「ちなみに執務室のデスクに婚姻届があったんだよな。見た時どうしてなのか死ぬ程困ったけど」
『!?な、なんでそんなもの…』
「用意してたんじゃねえの?俺手回しと行動力だけは自信あるから」
目に見える形こそまだまだいつになるか分からないものの、ちゃんと、俺はお前のものだと誓いたかった。
分かって欲しかった。
俺自身の意思だということを。
「というわけでリアちゃん、誕生日いつにしようか?三月三日で通しちまう?」
『た、誕生日ってなんでまた、…』
「ありがとうと、よろしくって言いたいから」
おめでとうというよりは。
この子が生まれてきてくれたことに、感謝したくて。
それくらいの、当然の幸せを、ちゃんと味わって欲しいと思ってしまって。
『…いつでも、いい。いつ生まれたとか、そういうの曖昧だから』
「…じゃあ、結婚記念日にする?折角だし…“中原”リアちゃんの誕生日ってことで」
ポロ、と、雫がこぼれて、それを手で拭ったかと思えば止まらなくなったのか、両手で目を擦るように、たどたどしく拭ってばかりになる。
『っそ、…ういう、とこが……っ…キザ、で…女たらしで、慣れてそうで…、』
「ははっ、俺もしかしてその辺まだ疑われてる?」
『……高校、卒業しても貰いてなかったらって話、だったのに……冗談みたいに、バカにして…』
「そんな失礼なこと言ったの?俺…でもその通りじゃん、言ってももうすぐ高校抜け出して大学行っちまうんだから」
『あ、…れ、あ…ほ、ほんとだぁ…』
「ちゃんと責任取れてて安心したよ、さすが俺」
たまたまだが。
まあ、偶然がこんな重なり方をすれば必然としか思えない。
それならば、俺がこの子を貰うのにだって華がつくというもの。
「ほら、目そんな擦るなよ。それ以上目痛くさせるようなことするならいじめたくなっちまうよ?」
『…いい、よ』
「……んじゃ、遠慮なく」
今度こそ、彼女の唇を堪能しよう。