第8章 タイムリミットとクローバー
『……なに、』
「…いや、俺が言う。愛想尽かしてなんかやらねえって」
『へ…、え、と…』
「逆に聞くけど、俺が本気でお前から離れられたことあったのかよ…自信もって聞くぞ」
もぞ、と少し離れられようとするのを阻止するように、存外力の入っていない彼女の体を抱きしめたまま離さない。
「そればっかりは俺の性質もある、記憶は…多分、そんなに関係ないと思うんだ」
『……中也さんて、どんな子が好き…?』
「ん?俺は…そうだな、すんごい甘えたがりで素直な子」
丁度こんな具合に、なんて彼女の額に口付けると、ぴく、と耳が反応する、
『う、嘘つき、鬱陶しいって思うくせに』
「思わねえよ、お前が相手なら」
『…ほんと?』
「じゃなけりゃとっとと突っぱねてんだろ」
少し考えるような素振りをしてから、そのまま俺の胸に頭を預けるようにもたれかかってきてくれるので、よしよしと頭を撫でてみて。
そうか、触れ合ってると安心するんだった。
他の奴らよりも遠い位置にいるだなんて、それだけで不安になるような……ああ、そればかりは性質だけじゃなく、俺の記憶の問題もあるのかもしれないが。
「…なあリア、お前さ。今十五?だったよな、早生まれだから」
『え、う、うん…それが?』
途端に、思いつく。
しないしないとあれほど言っていたくせに、存外応用力を発揮してくれてしまうのが俺の持ち前の行動力であるらしくて、彼女にそれを提案することとなる。
俺の方が、リードしていかなければならないはずなんだから。
「青鬼院家の養女ってことになってるんだっけか」
『…うん、一応は。でも私、縁組んでないから実質孤児みたいなものなの。紙の上では』
元々存在していなかったはずの人間を唐突に存在させたのだから、そこまで無理を通せるわけもなく、本家との縁を漏らすわけにもいかなくてぽつりと、唐突に存在した一人の個体。
この国において、そういう存在なのだ。
こいつ……それから、俺も。
「誕生日、桃の節句で間違いない?」
『…ポートマフィアにある情報なら間違い。リア、誕生日無いから』
書類上でも、細かい月日は不詳とされているらしい。
年齢だけは…というか、世代だけ把握できるように手回しをされているらしくて。
「それならまあいいや」
『?さっきから何を____』
「リアちゃん、俺と籍入れよっか」