第8章 タイムリミットとクローバー
許すったって、決してそれでいいだなんて思ってはいないが。
『じゃあね、やだったの。すんご嫌だったしなんならあの場で自殺できる方法考えながら冷静になってたの』
ナイフも鈍器も火もあったし、目の前で飛び降りるのだってよかった。
気を引けるならなんでもいいと。
彼女の言うそれは全て過剰に見えはするものの、その実彼女なりに筋は通っていて、俺が最大限嫌がりそうなことと考えた結果がそれだそうで。
「…気の利き方、知らねえの?その場で嫌だって言ってもいいし、それこそ怒ったっていいのに?」
『だって中也さんは皆といて楽しいでしょ』
「お前俺に気遣えるんならあともうちょっとじゃねえの、呼んでくれでもしたらすぐ飛んでいくのに」
『は、話しかけてもこっち来なかったくせに…、』
お前もしかして根に持ってんのはそっちか。
「…そっち行って欲しかった感じ…、?……ですよね?それ」
膝に乗せて抱いているために表情こそ見えはしないけれど、ようやく意地になっていた理由が分かった。
他の奴らに負けたと思ったらしい、俺がそっちの輪の中にいることを選んだから。
それをまあ…その場の雰囲気を悪くしないためにと、“俺の為に”自殺を回避してとった行動があれだった。
なるほど、それは……
「俺が悪かったですリアちゃん…どうしたら機嫌直してくれる?」
『…だから、くち』
「そういう事なら早く言いなさいね」
顔を覗き込むように動き、そして軽く彼女の顔を横に振り向かせたところでぎょっとさせられた。
本当に嫌そうな、意地を張った子供のような顔をして、拗ねたリアの顔を初めて見たのだ。
それも、また泣きそうな目で。
「……嫌なら嫌って言ってください、その方が俺、嬉しいですよ?」
『…ちがうもん、』
違う…?
思わず繰り返して聞いても、何でもないとそれ以上を拒まれる。
「なんでもなくないだろそれ」
『なんでもないって』
「お前がそう言う時はだいたいなんでもなくないんだろ」
『…残夏君の言葉の受け売り、なら…っ…絶対、違う、から…ッ』
…なるほど、そりゃそうだ。
俺の言葉じゃねえもんな、それはあくまでも中原中也という奴のしてきた事であって。
「じゃ、あその…なんとなくだけど……寂しがらせて、ごめん」
『え…、な…んで謝っ…』
「言えなかったのも、お前のせいじゃないだろうから」