第8章 タイムリミットとクローバー
リアに作ってもらったパイを一旦冷蔵庫に入れて、彼女の好きな物を考えていく。
俺の中にはまだこの子の好物に関しての記憶は今日のものしかないため、推測するのはかなり難しいのだが。
「好きな果物は?」
『な、なんでも食べれる』
「じゃあ今何が食べたい?」
『ほんとになんでもいいです、よ…?』
さすがにそこは遠慮してしまうらしい。
作り手が名前も知らない仕事でしている誰かならば大丈夫だったのが、俺が作るとなる途端にこれか。
「リアが好きな物食べさせてやりたいんだけどなぁ俺」
『あ、えっとその…あ、た、食べてみたいの、でもいい…?…ですか、!?』
敬語なんかにしなくていいのに。
癖…なんだろう。
というか、もしかしてこれが素なのだろうか。
「いいけど…食べたことないものなのか?それ」
『あ、うん、その…話で聞いたことあっただけだから、どういうのか全然知らないし調べてないんですけど』
「じゃあ俺が作るのが一番乗りになるわけだ?光栄だな」
ぽんぽん、と頭を撫でればそのコメントに安心してくれたらしく、それを俺に伝えてくれる。
『あの、ね?和菓子なんです、その…“パイン大福”』
「…俺が食べたことあるやつの再現でもいい?」
『え?…あっ、む、むむむ無理しなくていいの!!全然!!なんでも好きよ!!?』
「食べてみたいんだろ?強請っとけよ、俺が作ったやつ食べてもらうまで絶対食わせねえしあんな美味いの」
『美味しいの!?』
キラキラと輝き始める目は純粋な子供そのものだ。
反応ぶりとしては小学生のようなものではあるが、だからこそこの子らしいのだろう。
そうか、食べたことがないものも割とあるんだな。
もしかしたら、それでねだれなかったのかもしれないなと少しだけ心の中で反省もする。
「小豆は?いける方?」
『た、食べれます』
「嫌い?ちなみに俺は白餡派ですけど」
『り、リアも白餡大好き…♡』
「よし、じゃあ美味い方作ってやれる」
紅葉の姐さんのお得意先の和菓子屋で仕入れたそれをいただいたことがあり、再現できないものかと試したことがあったくらいだが。
まあまあ悪くは無い出来だったはずだし、作って食べたこともあったはずなので問題ない。
調理にとりかかる俺にくっ付いてくれる姿は、まるで一般家庭の娘のような。
………ああ、お前、憧れてたんだな。