第8章 タイムリミットとクローバー
『…い、いいよ。大体私が作ったのが今日の御礼みたいなものなのに』
「作らせてくれない?作りたいんだけどな」
『あ、朝も作ってたじゃない…ですか、』
やけに、拒まれる。
嫌がられている気がしないし、照れられているわけでもなさそうで。
ああ、怖いんだと、直感した。
「朝どころか、一日三食に毎食デザート付きで餌付けしたいくらいにはメロメロにされちまってるんですよ?」
『!!、…め、めろめろ、???』
分かって、ない。
全然伝わってない。
「そう。時間が経つ事にどんどん溢れてくんの」
『そんな、大袈裟な…そもそも、会ったばかりみたいなものなのに』
「だから正直困ってる。こんなに人のこと好きになったこと無いし…女の子相手に幸せにさせられたことないから、浮かれすぎて、何かしたくて仕方ないんだよ」
下から見上げるような形になるべく、しゃがんで、彼女の頬に手で触れ、撫でる。
ああ、泣きそうな顔してる。
そうだ、俺ってば泣かせてばかりなんだった。
なんとなく分かってたじゃねえか、泣かせてやらなきゃダメなんだって。
『ちゅ、うやさんが…したい、の…?ほんと、?』
「本当。腕は全然敵わねえけど、美味しいもん作るから…食べて?」
『…リアに、食べてほしいの?どうして?』
「どうしてか…一番は、そうだな。俺、リアと一緒に食べる方が好きみたいだから」
『ッ、!!!』
唇を噤んで、目を潤ませて、決壊してしまいそうな程にそれを溜めているのにそれ以上に溢れさせない。
けれどどこか心に響くものはあったらしく、少し俺に遠慮するようにして、こちらを見たり、目を逸らしたり。
いいって、言われてようやく分かる。
「俺が作るもの、全部、なんでも食べていいよ?お前は」
『…、あ……そ、う。…じゃ、あ…そ、その……い、いよ…?…食べ、る…よ??中也さん、の…作ってくれるの』
「!本当か!?良かった、すごい嬉しい…ありがとう、リア」
まさか喜ばれるなんて、お礼を言われるだなんて思いもしなかった。
見開いた瞳が、少し後ずさりかけるようにしてビクついた肩が…震える腕が、足が、伝えてくる。
「何か、リクエストない?してくれると嬉しい」
『えっ、リクエストって…』
「リアが好きな物」
『り、リアが好きなの?中也さん…』
ぷっ、と思わず笑ってしまった。
素直な奴だよ全く。